第10章 名前を呼んで
『え……っと、貸切って、え、E組の皆で貸切?』
今日が貸切であるという事を伝えにきた磯貝君に聞き返す。
え、一体何事。
「まさか蝶ちゃんが来てくれるなんて思ってなかったよ!中也さんも入ってください!」
一体何がどうなってこうなったのか分からずに、案内されるまま席に向かう。
パッと見だけで全員って思っていたのだけれど、律も携帯に入って来ているみたいで、本当に全員揃っていた。
「今日は烏間先生…っていうより防衛省の人達が、鷹岡の件で迷惑かけたから何か甘い物を好きなだけ食べてくれって、ポケットマネーでここ貸し切ってくれたんだよ」
潮田君の説明に成程と納得して呆然と立って見てみると、各テーブルに置かれた様々なデザートに目が眩んだ。
「そんでもってここでわいわいやってたらお客さんが入ってきて、何かと思えば牛がどうとか胃がどうとかで言い合ってた蝶ちゃんと中也さんだったってわけ」
『!カルマ君…』
相変わらずの態度だけれど、それが逆に、戻ってきたんだと私に認識させてくる。
帰ってこれた…また、皆に会えた。
あの場で死んでたら、それこそ私はもうここにはいられなかっただろう。
小憎たらしくも清々しいカルマ君の笑顔を見ていたら、自然とこぼれるように、ポロポロと雫が頬を伝う。
それに自分でも驚いてそれを手で拭うのだけれど、何でだろう、全然止まってくれない。
「し、白石!?どうした、カルマに何かされたか!?」
「蝶ちゃんどうしたの!?カルマ君一体何したのよ?」
「え、待って待って、俺何もしてな…____!?」
感極まってカルマ君に飛び付いて、その存在を確認するように泣きついた。
『帰ってきた…戻ってこれた……っ、また会えた…ッ』
「ち、蝶ちゃん!?いきなりなんで…って中也さん殺気しまって、俺本当無実だからこれ!!」
「チッ、まあ今回ばかりはしょうがねえ。手前それで蝶に手でも出してみろ、マジで殴る」
「蝶ちゃんに手なんか出さないよ、何言ってんのさ中也さん!?」
戻ってこれて嬉しかった、また友達に会えて、嬉しかった。
子供に戻らなくって良かった、皆と…カルマ君と同じ歳のままいれて、本当に良かった。
今更になって死ぬと覚悟したあの瞬間を思い出して、良かったという気持ちが涙になって溢れ出る。
中也さんがするみたいにカルマ君は暫く私を撫でてくれていた。