第10章 名前を呼んで
椚ヶ丘に到着し、スイーツ巡り八件目…そろそろ中也さんの胃にも満腹感が訪れてきた。
『中也さんもうギブアップ??まだあと一件残ってるよ』
「じ、上等だ…かかってこいや……ッ、ぐ…」
各店で散々に食べ回って来てから、もうお目当ての店は回りきってしまった。
最後に一件だけ残しておいたのは、以前にもお邪魔した、磯貝君の働いている喫茶店だ。
『ここのパフェすっごい美味しかったんだよね…とりあえず今日はパフェ制覇して、ケーキもいっぱい食べよう、そうしよう』
「お前の胃袋マジでどうなってんだ…」
『私の胃袋は甘い物のためにもう一個「あってもそこまで入んねえよ」……じゃあ四つ!!』
「それ牛な」
喫茶店近くで胃の個数の話を繰り広げているという異様な光景。
知り合いがいなくて良かった。
『牛で四つなんでしょ?ならやっぱり私二つだよ、二つ』
「それでも軽く牛より食ってんだろお前…つかそれでマジでなんでそんな軽いんだよ」
『普段いっぱい動いてるから?牛より食べてるなら胃は八つだね』
「いや、悪い、言った俺が馬鹿だった。お前の胃はやっぱ一つだ、底なしの胃袋が一個あんだよ」
俺だって結構動いてんのにお前とこんなに差がつくのはおかしいだろうと言いながら、喫茶店の入口を開ける。
私を先に入れてくれるものの中也さんの発言にムッとして、冷ややかな視線を送り付けた。
『さっきから聞いてみれば牛牛って…なあに、牛が好きなの?私の事は牛扱い?』
「は?…いや待て、それはお前の胃袋の話でだな」
『あーあ、牛扱いされちゃった。蝶は甘い物を食べてる時が至福のひとときなのに、中也さんに牛って言われちゃった』
「食う量と比例してなさすぎんだよ!!つうかだから別にお前を牛だなんて一言も「あああ!!!!」!?」
入口に入って店員さんを待っているうちにしょうもない論争を繰り広げていれば、ガタガタッという音と一緒に大きな声が響き渡った。
何かと思って肩を二人でビクつかせ、ゆっくりと二人で席の方に顔を覗かせる。
すると中にいた人達は皆一斉に立ち上がっていて、何かと思えばこっちを見て目を見開かせて驚いている様子で…って、あれ?
『え…え!?なんで皆ここにいるの!?』
椚ヶ丘中学校 三年E組が勢揃いしていた。
「遅くなりました!すみませんが本日は貸切で……ってあれっ、蝶ちゃん!?」