第10章 名前を呼んで
通勤通学ラッシュの時間帯よりも少し遅れていたためか、思ったほど電車は混んでおらず、中也さんと二人でシートに座れた。
普段ほとんど乗ることのない電車に少しわくわくしながら外の景色を眺めていると、中也さんにクスリと笑われる。
「そんなに楽しいんなら電車で来て正解だったな」
『!うん、電車なんて修学旅行以来だし…能力使わないの、なんか新鮮』
「そうか。…んでその分厚いメモはまさか?」
私が景色を眺めながら開いていたメモ帳に顔を引き攣らせながら、中也さんがそれを指さして聞く。
この顔は完全に察しをつけている顔だ、さすがは中也さん。
『カエデちゃんに教えてもらった、椚ヶ丘周辺のスイーツメモ!!有名所から隠れスポットまで全部教えてもらってるの!!』
「お、おおう…す、好きなだけ食え?……ああ、だが食ってもいいけど、出来れば俺は各店で普通の量をだな…」
『……中也さんにも食べてもらわなきゃ意味無いのに』
ポツリと呟いた。
色んなところでありとあらゆるスイーツを食べ、それを中也さんにも食べてもらえば、少なからず彼のリアクションが表情に現れる。
特に気に入ったものなんかであれば、少し分かりにくいけれど本当に嬉しそうに食べるため、次からのお菓子作りの参考にもしやすいのだ。
ちょっとでも中也さんの好きなデザートを作りたい。
それに、ちょっとでも一緒に、同じ事をしていたい。
甘い物を一緒に食べる時間が大好きな私としては、そこだけは譲りたくないものがある。
「…今日はいつもより食うつもりだろ?全部一口ずつなら貰ってやるよ、あとはコーヒーで勘弁な」
『!……うんッ、一緒に食べる!!』
「はいはい、お前と出かけるってなったらいつでもその覚悟は出来てるよ」
『流石だね、親バカ中也さん』
言った途端に、中也さんの表情が固まった。
「………今日は親バカ禁止な。次から言ったらカウントすっから覚えとけよ、言った数だけ帰った後に弱い所いじり倒してる」
『え…っ、いや、え?』
サアアッと血の気が引くような感覚に見舞われながら、黒い笑みを浮かべる中也さんの顔を見る。
『で、でででも中也さんが親バカだから親バカって言うのは仕方なくて…!!』
すぐさま口を両手で塞ぐも時すでに遅し。
「いい度胸してんじゃねえか…ええ?澪さんよ」
『それ今日はしなくていいからッ!!!』