第10章 名前を呼んで
『や、やっぱりそこまでやってた…何してるんですかもう!?』
「ちょっと記憶消してただけだ」
「「「いや、マジで何やってんだこの人…」」」
大きな轟音に首領も何かと思って出てきたらしく、見ると中也さんが壁に頭突きをしていたとの事。
流石に色々とやばいと感じて止めたらしく、丁度事情聴取をしようとしていたところらしい。
「……中原君、その記憶とやらは?」
「消したんでもう何も覚えてないです」
「そ、そんなに必死になるほどの事が…?」
中也さんの顔は青いままだ。
私と目を合わせようともしない。
昨日散々人に恥ずかしい告白しておいて何を今更…
すると立原が丁度横から見ていて何かに気が付いたらしく、な、中原さん…と話しかける。
それに中也さんは立原の方を向いて、ガタガタと震えながら何だよと情けない声を出す。
そしてそうやって顔を動かした事によって、私にも立原が見つけたそれが見えた。
それと同時にあ、と思い出して右手を見る。
「そ、その頬…どうしたんすか?すっげえ綺麗にもみじ型が……」
「…………立原、世の中には、やってはいけねえ事があるよな。な」
「え?あ、は、はあ…ありますけど……誰かに何かしたんなら、普通に謝ればいいんじゃ…」
立原の声に中也さんはバッと勢いよく私の方を振り向いて、これまた大きな轟音を響かせてゴンッ!!!と床に頭をつける。
突然の事態とその勢いにその場の全員がヒッ!?と声を漏らし、私でさえもが何も言えないで驚く事しか出来なかった。
「し、しし白石蝶さん!!!!……っ、すんませんっしたああああッッッ!!!!!」
『!……い、いいいいですからもう!!ね!?だから早く頭上げて額の止血を…』
ハッと気付いて声を上げると、中也さんはまたバッと顔を上げて、泣きそうな顔を私に向ける。
「…い、いのか……俺は許されてもいいのか。こ、こここんな俺が『もういいから早く立って下さいよ!!?』…」
スクッと立ち上がった中也さんに刺さる皆の目線。
それを気にもしていないのか中也さんは私の元まで歩いてきて、ガッと両肩に手を置いた。
「蝶、もう一発でいいから俺を殴れ」
『い、いやだからあの、中也さん…?』
「好きなだけ殴って蹴って叩いてくれていい、もう最悪この右手ごと取ってもらっても『中也さん、怒りますよ』……すんません」