第10章 名前を呼んで
パタン、と軽く音を立てて閉まる扉を呆然と見つめて暫くこちらもフリーズして、少ししてから頭が正常に機能した。
『…あれ!?中也さん!!?』
これは前にどこかであった流れだ。
急いで昨日首領に手渡された仕事服に着替えてから、扉を創る。
これは、この流れは…今頃中也さんが大変な事に……
嫌な予感がして意を決したように扉を遠慮がちに開いてみると、その瞬間に物凄い轟音が響き渡って、反射的に扉を閉めた。
見てない、私何も見てない。
近くに他の人がいたとか、部下の目の前で中也さんが壁に頭打ちつけてるのとか、そんなの何にも見てないよ。
今度こそ中也さんを連れ戻そう、そう考えて再び扉に手を触れた時。
中也さんの執務室の扉がドンドンと大きくノックされる。
「ち、蝶!!いるんだろ!?とりあえず出てきてくれ!!!」
外から響いた声は立原のもの。
すぐに扉を消して、それからトボトボと執務室の扉を開ける。
するとそこには予想通りに焦りきった立原と…何かとても恐ろしいものを見てしまったといった顔の黒服さんや樋口さんがいた。
かく言う私も、恐らく同じような表情をしている。
『…………うん、私、何も見てない。私、何も知らないよ』
「嘘つけ、絶対何か知ってんだろ!!あんな幹部恐ろしすぎて誰もあの廊下通れねえんだよ!!!」
確かに扉の先は、首領の執務室へと通ずる廊下だった。
よくもまああんなところまで移動したなと思いもするが、それにしたってあんな光景を見てしまっては、流石の私でもなんとも言えない。
『い、いや…放っといたらその内戻ってくるんじゃ……じゃない、うん。私何も見てないよ』
「か、壁にヒビが入るくらいにまで頭を打ち付けてた様子だったけど…」
『!ま、まさかあの人また血流してるんじゃ……ッ!?』
流石にそれはいけない。
あの人だったらやりかねない、前科もあるから余計にやばい。
すぐさままた扉を作ってバッと開けると、首領にやれやれと苦笑いを浮かべられながら床にしゃがみ込んでガックリと項垂れる中也さんがいた。
壁には本当にヒビが入っていて、心なしか煙まで上がっている気がする。
私に続いて一緒にいた全員が扉を通ってそこに移動した。
『ち、…中也さん……?』
話しかけるとビクリと肩を跳ねさせて、涙目になって額から血を流した中也さんが…ってダメじゃん