第10章 名前を呼んで
結局あれから散々に触れるだけのキスをまた落とされて、散々名前を呼ばれて、私の方が持たなくなって眠りについた。
中也さんはまだまだ余裕といった表情でもっとしたかったらしいのだけれど、流石に私が疲れているという事で、すぐに一緒に寝てくれた。
中也さんと恋人になった日…中也さんが恋人になってくれて、中也さんの恋人になった日。
結局優しい中也さんは、蝶も澪も纏めて私という存在を大切にしてくれた。
敵わないのはどっちの方だ、私の方こそ敵わない。
まさか、また私の事を澪と呼んでくれる人が現れるだなんて…私がその名前を呼んでとわがまま言う日が来るだなんて、思ってもみなかったのだから。
私がその名前を呼んでほしいと、私の中で私が声を発したのなんて、あの世界を追い出されて以来のものだったのだから。
『………ん…な、んか当たっ……て…』
満たされた気持ちのまま目が覚めて、窓から差し込む光で朝だと認識した。
そこまではよかった。
中也さんの…私の大好きなその手が…………今回ばかりは好きにはなれそうにない。
『……な…ッ、何してんですか破廉恥なああああッッ!!!!?』
思いっきり頬をひっぱたいた。
下手すれば汚濁を止めた時よりも威力が強かったかもしれない。
「いッッ…、てえ!!?れ、澪…じゃなくて蝶!なんだよ朝っぱらからんなキレて……あ?んだこ…れ…………」
『!!…ッ、やっ……は、やく離し……っ』
私の片方の胸を手で掴んだまま、何を思ったのか突然それをムニュムニュと触り始めた中也さん。
流石の私も身体が反応して手が出せなくなるし、何よりも恥ずかしいしで声が出せなくなってきた。
「…………あ」
『……ッ、はな、して…?』
フリーズした中也さんに再度お願いすると、手を震わせながら恐る恐る離してもらえた。
気まずくなって壁側を向いて布団に包まると、中也さんがサッとベッドから立ち上がる。
それに何故か不思議とデジャヴを感じてチラリとそちらに振り返ると、顔を青くして冷や汗をダラダラと流しながら、中也さんは執務室の入口の方にゲッソリとしながらフラフラと歩いていく。
中也さんの普段の様子からは想像もつかないくらいに背中は猫背になっていて、纏うオーラが物凄く重たかった。
そして中也さんが執務室の扉を開けてから一言。
「………ちょっと一回死んでくる」