第10章 名前を呼んで

『……あの枷を扱えるのは、もうあれを作れるあの人しかいないって事…？』

｢そういう事だ。俺が壊したもので最後のはず…まあでもその組織とやらが何を仕掛けてくっか分かんねえから、やっぱりあの枷レベルのもんは警戒しておいた方がいい｣

ﾎﾟﾝﾎﾟﾝ、と撫でられる感触が素直に心地よくなった。
中也さんが、外に出回っていた唯一のあの枷を壊してくれちゃったから。

『ん…あれ、でも中也さん、なんでそんな事知ってるの？』

私の問いかけにﾋﾟｸ、と手が反応した。

｢い、いや…それはだな、トウェインの野郎が手元にある枷はその一つだけだって…｣

『いつの間にそんなお話してたの二人共』

｢し、仕方なくだからな！？仕方なく連絡先交換して…｣

『あ、交換したんだ』

ぐっ、と声を漏らす中也さんになんだか微笑ましくなった。
友達……という形ではないのだろうけれど、それでも中也さんが気兼ねなく話せるような人が増えたのはいい事だと思ってる。

この人、私に構ってばっかりだったのもあるけれど、性格とか立場とかのせいでそういう人って少なかっただろうし。

口元を緩めていると、何を思い出したのか、中也さんの顔が突然少し暗くなる。
様子が明らかにおかしい。
先程までと調子の変わった中也さんの表情に私の方まで心配になってきて、中也さんの顔を覗き込んだ。

｢……蝶、帰ったらしたかった話ってのがな？｣

『！…うん』

｢太宰の奴に聞いたんだろ？俺が……全部見て知ってたってこと｣

何がとは口にしない。
私もわざわざ聞き返さない。
全部知ってた、それを指すのはただ一つ、あの実験データの事しかないのだから。

｢それでちゃんと言わねえといけねえと前々から思ってたのもあるからよ……悪かった、黙って全部見ちまって。女のお前からしてみたら特に見られたくねえようなもんだっただろ…本当に、ごめん｣

『………なんで中也さんが謝るの？中也さんは、小さい時の私が怖がらないようにって見てくれてたんでしょ？…最初から全部受け止めるつもりで、あんなものを全部見て、理解してくれていたんでしょ？』

｢それはそう、だが…でもお前が気にするようなもんまで全部勝手に見てたんだ。そこはちゃんと謝らねえと……｣

中也さん、と一言発して、目元も緩めて微笑みかける。

『ありがとう、私と一緒にいてくれて…大事にしてくれて』