第10章 名前を呼んで
「本当、よくやったよ。首領なんかお前のいねえとこですっげえ泣いてたけどな」
『私は今回何もしてない…全部他の人が色々と動いて解決しただけ』
「んな謙遜すんなって。もう全員、お前が今回の抗争で一番の鍵を握ってた事なんざ分かってんだからよ」
『発信機付けて敵船に乗ってただけだもん』
中也さんは後頭部を撫で始め、それに段々と私も落ち着いてきた。
ここをこうやって撫でられると安心する。
恥ずかしさも全部忘れて、前みたいに中也さんを感じられる。
「探偵社に乗り込んだ俺から社員を守り、太宰の野郎に予測だけで空大砲を使えなくするための飽和チャフまで用意させて、Qの呪いから街を救うため人虎を後押し、その上状況的にはかなりやばかったが俺の汚濁の解除と太宰の救出…そんでもって壁のおかげで、街には破片一つも飛んでは来なかった」
『!防げてた…?』
「ああ。まあ、でけえ波の水圧には耐えられなかったらしいが、それ以外は全部防げてたよ。波の方も壁で軽減されて、壁が消えた頃にはちっさくなってたさ」
首輪をつけられたことによってエネルギーの供給が出来なくなった半端な壁を、ずっと心配していた。
だから本当に良かった、この街が壊れるような事にならなくて…ううん、そんな事はもうどうだっていい。
港で待っていた大切な人達に、怪我をさせずに済んだと分かっただけで十分だ。
『…良かっ「全っ然良くねえよこの馬鹿が、お前あのまんま死ぬつもりだっただろうが、あ?俺はその辺かなり根に持ってんだからな、マジで心臓止まるかと思ったくれえなんだから」す、すみません』
「何気に今回一番危なかったのお前なんだぞ、分かってんのかその辺。組合の奴らが本当にお前にも悪い奴らだったら、それこそ今回だって……まあいい。今度から知らねえ奴と会うような事があったら、あの枷をまず警戒しとけ」
何やらまだお前の事を狙ってる輩がいるようだからな。
そう言った中也さんに、私はそれは違うと思う、と返す。
『狙ってるんじゃなくって…多分、あの場で完全に私の事を殺すのが目的だった。そうじゃなかったら気絶でもさせて連れ去られてただろうし』
「お前を…?でもなんで殺す必要がある」
『さあ…私もかなり怪しいとは思ってるから、調子が戻ったら動いてみるつもり。でも相手のボスとやらは、私の事をそこまで熟知しているわけじゃないらしい』