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第10章 名前を呼んで


中也さんの表情は困ったような顔になって、それさえもが今の私には刺激が強い。

『…そ、の顔ダメ……ッ』

「顔…ってそれどうしようもねえんじゃ……」

『だ、だって今まで普通のスキンシップだと思ってたのに…ッ、どうしようもなく意識しちゃって……恥ずかし、い』

言ってから目を横に逸らして口元を手で覆い、素直にお喋りをする自分の口からこれ以上ボロが出ないようにと呼吸さえもを浅くする。

「お前、俺が今までキスしたりすんのに違和感持ってなかったのか?それだけでなくとも、ただでさえ前よりお前の言うスキンシップは多くなってたはずなんだが」

『ち、中也さん鈍感だって思ってたからその…』

「お前のがよっぽど鈍感……ってほぼ俺のせいだったな。…あー、まあとりあえず退くけどお前…俺がいて寝れんのか?それ」

『ね、寝れる…?』

いや、なんで疑問形になんだよ、と軽くデコピンされてそちらを向けば、中也さんと目が合わさった。

目のやり場に困ってしまって目を泳がせると、中也さんは私の上から退いて、私の左側に横になる。
……相変わらずさり気なく私を壁側にするあたり、本当にこの人何者なんだろうって思うんだけれど。

「からかって悪かったよ、ちょっとどんな反応されっか見たくて上乗ってみただけだ」

『!い、意地悪!悪魔!鬼!』

「あ?そんなに一緒に寝たくねえか、そうかそ…んなくっつかなくてもどこにも行かねえって」

離れる素振りを見せた中也さんの策略にまんまとはまってくっつきにいってしまう私の体。
普段の癖って恐ろしい、どうしよう、今回のは言い訳出来そうにない。

「……とりあえず布団被せっから手退けろ。すぐ戻ってきてやっから」

どうしようもなくなった手を動かすことも出来ずにそのまま中也さんの胸に顔を埋めていれば、結局中也さんは異能を使ってふわりと上から布団を掛けてくれた。

「ったく、仕方ねえ…今日は蝶は甘えときたいもんな」

『……ん』

「…珍しい、マジで今日素直だなお前」

中也さんの声は驚いているけれど、やはり優しいものだった。
素直…意地っ張りって言ったり素直って言ったり、本当に中也さんはよく分からない。

本人曰く私は意地張ってても分かりやすいから結局素直だとか…

中也さんの方をチラリと見て、まだ言っていなかった言葉を交わす。

『ただいま…』

「!……おかえり」
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