第10章 名前を呼んで
ど、どうしよう。
今まで中也さんは鈍感だとか思ってたから抱きつくのなんてスキンシップみたいなものになってたのに…心臓がうるさい、鳴りやんでくれない。
音、聴こえてないよね?
ていうかなんでいきなりこんな…っ
「ありがとう蝶…一生大事にする」
『い、いえ…っ、私もチョーカー、ありがとうございました』
「……蝶?お前、なんか様子が変じゃねえか?」
『へ、変!?そんな事な……ッ!!!』
ん?と優しく微笑んで顔を覗きこまれ、飛び跳ねそうになるのをなんとか堪えて中也さんを見る。
この顔、ずるい。
普段は眉間にしわ寄せてばっかりのくせに。
二人になったらこんな優しい顔見せて…自覚無いのかな。
胸の奥がドキドキするのを悟られないようにと平然を装おうとしても、流石に突然すぎて対処出来そうにない。
ダメだ、恋人とか改めて考えたらそこから意識が逸らせなくなる。
男の人とお付き合いするとか初めてだから何をどうすればいいのかもう分からない。
完全に頭が混乱してきた。
『え、ええええ…っとその……!あ、そう!話!!お話するって言ってたやつ!!』
「話?ああ、そうだったな…ってなんでそんなてんぱってんだよ」
『してないですそんなの!!ほ、ほら早くお布団…入っ……〜〜〜!!!』
「蝶?」
横になって話をしよう、いつもするみたいにそうしよう。
それでよかったはずなのに。
おかしい、どんどん私の中で、中也さんが男の人になっていく。
今までこんなに意識なんてしてなかったはずなのに。
こういう関係になって、もっともっと中也さんの事、男の人として意識していってる。
一緒に寝たい。
我慢してたぶんいっぱいくっ付いて撫ででもらって、大好きなこの手の中で眠りたい。
なのにベッドに入る事すら恥ずかしくって、もうどうすればいいのか分からない。
そこでようやく気が付いた。
そうか、だから同棲って聞いた時、クラスの皆も探偵社の皆も、あんなにびっくりしてたんだ。
本来なら、こんなに恥ずかしいものなんだ。
それに気付いてしまうと、更に顔に熱が集まってきた。
『な、何でもなくて…ッ、いや、何でもなくもなくって「いや、どっちだよ」ある!!!……けど、ない…ッ』
めちゃくちゃな事を言う私にはぁ、と溜息を一つ吐いてから、中也さんの手が頭に乗った。
そして、ベッドに押し倒された。