第10章 名前を呼んで
「……なあ蝶」
『まだ。もうちょっと待って…』
中也さんの執務室にお邪魔して、南の島に持って行っていた部屋着に着替え、箱…の中に入って包装されている、一回り小さな箱を取り出す。
よかった、もう一つ箱用意しておいて。
これで中也さんに見つかってたらサプライズにならないもんね。
綺麗にラッピングされた箱を両手で持って、後ろで壁を向いている中也さんの頭にぽす、と乗せる。
「!なんだ?もういいのか?」
『うん、いいよ』
頭の上にあるものが私の手ではないとすぐに気づいて、中也さんが箱に両手を添える。
「ん…何だこれ」
私が手を離すと中也さんはそれを目の前に持ってきて、こちらを振り向き、ラッピングされた箱をまじまじと見つめた。
開けて開けてと言うように目をキラキラさせていると、中也さんはデスクの方からペーパーナイフを取り出してきて、綺麗にラッピングを開け始める。
『そ、そんな気を遣わなくっても…』
「お前がくれたもんを下手に扱えるかよ俺が」
中也さんの気持ちを伝えられた今となっては、そんな言葉さえもが恥ずかしい。
おかしいな、前まで単なる親バカだと思ってたのが、意識するだけでこんなに恥ずかしい言葉に変わるだなんて。
「…おおっ……こりゃ想像してなかった」
思わず顔を背けて熱くなっているのをバレないようにと気を張っていると、中身を見たのだろうか、中也さんの感嘆した声が聴こえた。
チラリと横目で見ると、頭に被せたり回転させて見てみたりと、中々に気に入っていただけている様子。
好みのデザインだったようで一安心だ。
「こんないい帽子、一体どこで……ッ!!?お前これ…っ、どうりですげえと思ったら…ビキューナじゃねえか!!?」
ガバッと私の肩を掴む中也さんに驚いて、ガクガクと揺さぶられる。
今私すっごいしんどいんですけど分かってるのかなこの人は。
「どこで…っ、つかなんでこんな高級品……!!」
『ち、中也さんの誕生日…の分をと』
ピタリと私を揺さぶる手が止まり、視線が更に突き刺さる。
『ほ、ほら、横浜に帰ってきたのはいいけど四月は中也さんと会えてなかったし……中也さんずっと仕事用のやつだし。だからこの間殺せんせーと一緒にイタリア行って、ボルサリーノを……ッ?』
しどろもどろになりながら言っていくと、中也さんに抱きしめられた。