第10章 名前を呼んで
『…出てみて何かあったら言ってください、すぐに私が相手を特定して息の根を___』
「物騒な事言わないの…ああ、大丈夫な相手じゃないか。もしもし?」
軽く流されたのは我慢だ。
くぅっ、この人も中々つよい。
「え?ああ、はい…あ、本当に。ありがとうね、受付で渡してもらえるとありがたい。はい、じゃあ」
会話は短かったようだけれど、首領はなんだか嬉しそう。
そんなにいい内容だったのだろうか。
「殺せんせーが荷物を持ってきて下さったそうだ。沖縄から戻ってからはイリーナ先生のご自宅に置いてもらっていたらしくて、今持って来るって連絡が…」
言うが早いか、医務室の入口からガタガタと音が鳴って、黒服さんが入室してくる。
え、待って、早くない?
「首領!お荷物が届きました…が、何やら中に怪しい箱が____」
黒服さんが口を開いた瞬間に、キャリーケースを能力で移動させて抱え込む。
『だッ、だだだダメ!!絶対!ダメ!!!』
「ん?この子は……!し、失礼しました!!」
『い、いえ…ッ、中、見ました……?』
焦りすぎて途切れ途切れに聞けば、見てないです!と敬礼する若めの黒服さん。
『よ、よかった……っ』
「蝶?箱って、俺も気になってたんだがいったい何をそんなに…」
『ひああああ!!?』
「!!?な、なんだよ!?」
肩に突然手を置かれて、それだけなのに、今は心臓が飛び出そうに驚いた。
『や…っ、その、後で……!後で説明しますからッ』
「お、おう…?まあ危ねぇもんじゃねえんならいい」
キャリーケースを抱えたままいると、首領に挨拶をしてから若めの黒服さんは退室していった。
そして首領は、私の方に向き直る。
「うん、それじゃあ中原君の執務室に…もだけど、本当に綺麗になっちゃって。ねえ、中原君?」
『!…っ、?』
そういえば今日の格好について、中也さんからまだ何もコメントはいただけていなかった。
気になって仕方がないために中也さんの方を遠慮がちにチラチラと見る。
すると私の視線に気が付いたのか、フッと笑ってまた私の頭に軽く手を置いた。
「後でしつこく言ってやるよ……まあその、なんだ。とりあえず、すっげえ似合ってる」
『ほ、んと…?』
「俺が嘘言うことがあるかよ」
『……結婚したい?』
「「ブッ!!?」」
『ふふ、冗談です』