第10章 名前を呼んで
「もう、またこんな無茶をして…とりあえず今日はここで寝泊りだよ、いいね?」
『!や、やだっ……今日は家に帰って…ッ』
「ああもう本当可愛い…じゃなくって、そんな事言ってもダメなものはダメ。今回は輸血も点滴もしないで栄養補給だけで済ませるんだから、その分安静にしてなさい」
首領の言葉に反論するも、ダメだの一点張り。
確かにしんどいし動くのは辛い。
だけどダメなんだ、今日は帰ってから中也さんといっぱい話すって、言ってたのに。
久しぶりに一緒に寝れるって、思ってたのに。
『お、お願いします…っ、今日だけ……明日また来ますからっ』
「ふむ……中原君、今日何か家の方に大事な用が?」
「えっ…いや、特にこれといった用は無いんですが」
言いながら、寝台で横になる私の元に歩いてきて、額に優しく手を置く中也さん。
この手だ、本当に大好き。
この手に触れられながら眠るのが、どれだけ私の待ち望んだ事だったか。
どれだけ一人の夜が怖かったか…くらいところが恐ろしかったか。
「多分、俺が理由かと」
「!…成程、察しが悪くてすまないねえ。そりゃあそうか、蝶ちゃん、久しぶりに中原君と帰れるって日に……でもダメだよ。帰ったらせっせと中原君のために家事でも何でもして動き回るつもりだろう」
首領の的確すぎる予測にうっ、と声を漏らして顔を顰める。
仕方ないじゃない、ずっとずっと中也さんにするのを我慢してたのに。
中也さんに、大好きなこの人のために、尽くしたいのに。
「……あー、首領。とりあえずこいつがちゃんと休めればいいんですよね」
「ん?そうだけど…何かいい案を思いついたのかい?」
「いや、執務室のベッドを使って、俺もここに泊まればいいんじゃねえかと…」
『ダメ!!中也さんもちゃんとした所で寝ないと…だけど……』
それはいいね、と納得する首領に振り向くと、中也さんにペシ、とまた軽く額を叩かれる。
「阿呆か、俺はソファで寝るなんて言ってねえだろうが。お前と一緒にベッド使って寝るっつってんだよ」
『!!…ほん、と?中也さん、一緒にいる?』
「だからさっきから言ってんだろ?そうすりゃお前の悩みは無くなるわけだし、言ってた話もちゃんと出来る」
『…………泊まる』
素っ気なく返した返事によし、とまた中也さんが私の額を撫でて、本日のお泊まりが決定した。