第9章 天からの贈り物
「ん?蝶が、あんたより長く生きてる…?」
「ああそうだ。理由はまあ色々あるが、そこはそこの陰湿鯖野郎に聞いてくれ…なんせまあ、手前らから容姿とか年齢とかに触れられんのはちょっとキツいだろうから、あんまその辺のことは聞いてやんねえでくれるか」
宥めるように撫でると更に俺に回した腕に力が入った。
『……蝶は今十四でいいもん』
「おう、分かってる。でももしお前がまた六歳んなっても、俺はお前と一緒にいるからな」
白鯨に乗り込んだ時に聴こえた、小さな小さなごめんなさいという声。
恐らく本気で死ぬのを覚悟していた声だ、聴いた時にこっちの心臓が止まるかと思った。
そして恐らく、心配症のこいつの事。
自分が死ぬ事なんかより、俺がその後どう接するか、離れていってしまわないか、そんな事まで考えて泣いていたに違いねえ。
まだまだ分かってねえ蝶に、ちゃんと教えていってやらねえといけない。
俺が白石蝶の事を好きであるということ…それだけに限らず、こいつという存在そのものが愛しくて愛しくてたまらないのだという事を。
姿形が変わっても、こいつはこいつのままでいる。
勿論このまま成長していってくれんのに越したことはないのだが、もしまた子供に戻っちまっても、俺は永遠にこいつに尽くすととっくの昔に決めている。
『中也さんエスパーか何かなの?また私の事泣かせにかかってる』
「お前が泣き虫なだけだろうがこの心配症。大丈夫だよ、俺は“お前”を見かけた餓鬼の頃から、ずっとお前一筋だから」
『何それ、親バカ?』
「違ぇよこの馬鹿、察しろっつの」
帰ったら教えてねと話を聞かずにギュッと抱きしめる蝶に、またもや心を揺さぶられる。
意地でも俺の口から言わせる気だなこいつ。
上等だ、帰ったらマジで覚えとけよ。
「ええっと…蝶ちゃんが大人で?でも十四歳で…ん?」
『……精神年齢高めの十四歳です』
「上手いこと言ったつもりかもしれねえけどお前すっげえ甘えただからな?俺からしてみりゃ説得力全然ねえからな?」
つうか俺が分かってりゃ十四でいいだろもう、と頭を軽く小突くと、アタッ、と声を漏らしながらも更に俺に甘えてきやがる。
まあ、女からしてみたら容姿の事なんざ、男なんかよりもよっぽど気になるものなのだろう。
この辺のことは、ゆっくり知って、ゆっくり大人になっていけばいいさ。