第9章 天からの贈り物
「で、この懐き具合いかい……あんたも慣れてるもんだねぇ?」
首領に許可をいただいて、遂に探偵社の事務所にまで足を踏み入れちまった。
俺ポートマフィアの幹部だよな確か。
これ、停戦協定結んでなけりゃ絶対ぇ俺の首撥ねられて…いや、蝶がいるからセーフか。
なんて頭の中をグルグルさせながら、腕に擦り寄る蝶を撫でつつ、以前蹴りを入れかけた探偵社の女医にニヤニヤと笑われる。
それだけでなくとも様々な社員達から身体が痒くなるような生温い目線を向けられて、本当に俺の癒しは蝶だけとなっている状態だ。
…言ってはやらねえけど。
右手で文書を作りながらも少女の様子を横目に見ると、器用な事に、俺に擦り寄りながらもカタカタと左手でキーボードを打っているようだった。
まあ、こいつからしてみりゃ文字の打ち込みぐらい、手馴れたもんか。
「蝶がこうなのはまあ…日常だもんな?」
「「「ブフッ…!!?」」」
『んー…中也さんのにおい好き』
「「「「ブッ!!!!」」」」
やべえ、マジで可愛いこいつ。
においってなんだよ、こんな事ばっか言ってっから愛玩動物だとかっつう話になんだろが…天使蝶様、俺の癒し。
感涙しながら右手でガッツポーズをすれば、探偵社員共から物凄い目線を向けられた。
「え、えらい気に入られようだ…ていうか日常って、そんだけくっつかれてて告白したのは今日なのかい?全く、遅いったらありゃしない」
「全くですよね、こんなに分かりやすいのに。素敵帽子さんって奥手なんですか?」
「女性経験は蝶ちゃんが初めてと見た、素敵帽子、なかなかに一途だな君」
「なんなんだよ手前ら揃って素敵帽子素敵帽子って!!?」
馬鹿にされているということはよく分かる。
そして探偵社の中でも頭の切れる野郎に言い当てられてしまって、反論することなくヤケになった。
『蝶は中也さんのだね、絶対絶対運命だもんね』
「また話が…っ」
頭を抱えつつも、実質そんな風に考えちまう俺の頭では何も言い返せなかった。
本当に奇跡か偶然か、俺のところに来てくれたこいつは、神を信じちゃいねえがそんな類の力か何かが働いたもんなんじゃねえのかと思いさえもする。
神なんてものがいるんなら、天なんてものがあるんなら…
夕日の中で蝶を抱きとめた感触がまだ残る手をグ、と握る。
こんなに素敵な贈り物を、ありがとう