第9章 天からの贈り物
中也さんの声に騒然となって、ざわつき始める周り。
だけどそんな声が耳に入らなくなるくらいに、今私の頭の中は真っ白になっていた。
目を見開いて中也さんを呆然と見つめ続けていると、中也さんはしゃがんで私が肩にかけていた外套を地面に敷き、いつかの時のようにそこにふわりと私を座らせる。
痛めた脚は軽く浮かせてくれているまま、私の目の前で傅くように膝を立て、私の左手から手袋を外し、指先に長い長い口付けを落とした。
『……!へ…っ、あのっ、私!!?あれ!?…………ッッ!!?』
顔をこれまでにないくらいに熱くして慌てふためく私の指から唇をゆっくりと離したかと思うと、その唇が次々に、色んなところにキスを落としていく。
手の甲、手をひっくり返して掌…手首、胸元、腕と来て、今度は痛めていない方の脚を優しく持たれ、裸足だったためか脛、足の甲、爪先と、隅々までキスを落とされる。
『ち、ちち中也さん!!?そ、んなとこ……んん、ッ…』
今度は中也さんがまた私の方に近付いてきて、首筋、喉…そして耳、髪、鼻、瞼、最後に額……ありとあらゆるところに優しくキスを落とされていって、羞恥で胸が張り裂けそうになる。
『あ…ッ、の……ちゅ、やさ……っ?』
「……偶然に偶然が重なって、貴女は俺の元へと来てくれた。前にも言った通り、本当に奇跡のようなもんだと思ってる」
後頭部に手を回して撫でながらも、中也さんは私から目を逸らさない。
私も……逸らせない。
「本当の事を言うと、俺が好かれてるんじゃないかって思った事もいっぱいある。けど俺なんかでいいのかって見て見ぬふりして…結局辛い思いをさせた事もあった。本当にごめん……だから、もしもまだ俺にチャンスをくれるんなら、貴女の恋人にして下さい…俺の恋人に、なって下さい」
『…………私、重たいよ?性格も、持ってるものも、全部全部、重たいよ…っ?』
「俺が全部受け止める…そんなもん、重さなんか感じねえくらいにぶっ壊してやる。俺なんかの一生じゃあ全然小さなものだろう…でももう一回、今度は破ろうとなんかしねえよう約束する…………貴女と生涯を共にします」
今度は辛いわけでも苦しいわけでもないのに、ボロボロと涙が溢れてきた。
『そ、れっ……だから…ッ、プロポーズになってます、っ…』
「馬鹿、してんだよ…この泣き虫。…返事は?」
『…はい……ッ』