第9章 天からの贈り物
私の足に負担をかけないようにしてくれたのだろう。
中也さんは私を横抱きにしたまんま、窓から私をかっさらうようにして外に飛び出した。
異能で中也さんも浮いていて、うっすらと下を見ると、海の上で、白鯨と輸送ヘリが静止している。
「……ッ、流石にもう集中力が持たねえ。この塵海に落とすから、お前は…ちゃんと俺から離れねえようにしがみついてろ」
中也さんの声に恐る恐る腕を動かして、彼の首元に抱きついた。
怖かった、この人のいないところで、心臓が止まってしまうのが。
怖かった、この人との約束が、守れなくなってしまいそうだったのが。
ギュウッとしがみつくと頬に柔らかくキスを落とされて、大きな音と共に白鯨とヘリが海に落ちていく。
まさか貴方が来てくれるだなんて思わなくて、まさか自分が助かるだなんて思っていなくて。
泣き顔を隠すように中也さんの胸に顔を埋めて、肩を震わせて、それこそ本当に子供のように、声を押し殺して大好きな人に泣きつく。
「ほら、地上に着いた…つってもお前、その足折れてるだろ。お前の担任が俺んところに駆けつけてこなかったらどうなってた事か……」
「!蝶ちゃん!!?」
「中原さん!!」
「!!よかった、間に合って…ッ」
中也さんの声の後に、周りにいたのであろう、敦さんに芥川さん、そして太宰さんの声が聞こえた。
『担、任っ?殺せんせ、…?』
私が声を出した直後にすごい風が身体を撫でて、すぐ近くに殺せんせーが着地したのだと気が付いた。
「はい、白石さん…お久しぶりです。ここで太宰さんと待っていたのですが、そちらの女の子から、白石さんが自力で脱出ができなくなったとお聞きしまして」
「別の港から様子を見てた俺んところにいきなり現れて、白鯨んとこまで連れて行かれたんだよ。壁があったから大丈夫なのかと思ってたんだが……本当に間に合って、よかった」
中也さんが私を抱く腕に力を込める。
『ん…、痛い……』
「我慢しろこんくらい…さっき巫山戯た事ほざいてやがった仕置きだ」
『!……巫山戯た事?』
「…お前、俺の事呼ばずにあのまま一人で死ぬつもりだっただろ。ああいう時はな、俺の名前を呼んだら、すぐに気付いて駆けつけて行ってやるんだよ……大好きなのがお前だけだと思うなよ」
そうか…中也さんが、壁を壊してくれたんだ。
私のとこに、来てくれたんだ。