第9章 天からの贈り物
再び自身の身体にも響いた衝撃に、モビーディックが海に衝突したのだと、まだ弱い状態の壁にぶつかったのだと……自分がまた死ぬのだと、深く深く悟った。
足の痛さに悶えそうになりながらも、あの人に見つけてもらった時に、出来るだけ綺麗でいたいから…出来るだけ、綺麗な姿で見つけてほしいから、もう身体は動かさない。
子供になったらどんな顔をされるだろう。
今度こそ私に愛想つかして捨てていっちゃうかな…それとも気まずくなっちゃうかな。
____せめて死んじゃうような時くらい、中也さんの腕の中にいたかったよ。
死ぬ恐怖が再び私の中を支配していって、指輪を握りしめる手に更に力がこもる。
ありがとう、こんな私をここまで幸せにしてくれて。
わがまま言っちゃうと、次の子供になった私の事も、同じように幸せにしてほしいけど……そんな無理、頼めないよね。
いい区切りじゃないか、中也さんに重たいものばかり背負わせないで、身軽になってもらえるんなら。
私が子供に戻っちゃったら、泣いてくれるかな。
私の事、いっぱいいっぱい思ってくれるかな。
零れる涙を堪えもせずに、ただただ自分自身を嗤うように、意地を張って震える口元を緩ませた。
『……ごめんね、中也さん…大好きだったよ____』
一際大きく響き渡った振動に覚悟を決めて、痛みに耐えようと目を強く瞑る。
流石に私の張っていた壁も壊れたのだろうか、パラパラと窓の外で砕けている。
今度の死に方は窒息死か…白鯨に押しつぶされて死ぬか、海の中で溺れて死ぬか。
海の中なんかで死んじゃったら、流石の中也さんでも見つけられないかな。
約束守れなくてごめんなさい。
生きていけなくて、ごめんなさ____
「手ッ前……ッッ、巫山戯た事ばっかほざいてんじゃねえぞ!!!!!」
心の中での言葉を、想いを断ち切るように、その声が耳に響いてきた。
あれ、なんでそんな声が聴こえるの?
なんで私の事を手前って呼ぶ声が聴こえるの?
なんで、大好きな貴方がこんなところにいるの……?
目をゆっくり開けば、涙でぼやける視界の中に、大好きな中也さんが映っていた。
割れた窓から入ってきてすぐに私の周りの機器を異能で浮かび上がらせて、私の身体を持ち上げる。
『い、ッッ…!!ぁ、……っ』
先程怪我をした足に鋭い痛みが走ったかと思えば、ふわりと足がその場で浮いた。