第9章 天からの贈り物
言い終わる前に、凄まじい衝撃に、モビーディックが垂直に傾く。
鏡花ちゃんの声も、もう聴こえない。
輸送ヘリが、追突したんだ。
モビーディックが破壊されても破片が飛ばないようにと、ヘリが追突すると予測した場所と脱出口以外は全て壁でコーティングしてある。
鏡花ちゃんは恐らくこれで夜叉白雪の力が扱えるようにはなるだろうから、後は彼女がそれに気付けばあの子はちゃんと助かるはずだ。
だけど、心優しい彼女のこと…たとえそれで私を助けようとモビーディックに切りかかっても、コーティングしているこの機体に傷付けることすら不可能だ。
その程度の強度は、既に与えてあったのだから。
『……まさか、良かれと思ってした事が全部自分の首を絞める事になるだなんて』
衝撃のせいで崩れてきた大きな機器に、躱していったつもりが左足をやられてしまった。
外傷自体は治ったものの、打ち身と骨は治りが遅い上、少し前にあれだけの構成員さん達に細胞を移してきたばっかりだ。
そろそろ身体だってしんどくもなるし……血だって、いつもより足りてないし、フラフラするし…
割れた窓の破片が頬を掠めて、真っ白だったドレスに少し血が滲む。
ああ、本当馬鹿だなぁ私…死なないって、約束したのに。
窓の外に見えた、もう目の前にきている横浜の街を見つめながら、涙を滲ませる。
これで死んじゃったら、また子供からやり直しじゃん…折角ここまで成長出来たのに、また初めにリセットじゃん。
折角あの人に、女の子として見てもらえるようになったのに。
折角あの人の中で、ただの子供から成長出来ていたはずなのに。
意地と気力でなんとか機器を押しのけて、重力に逆らわずに海へ向かって落ちていく白鯨の中で、解除することの出来ない自分の壁の外に映る大好きな街を……大好きなあの人と、たくさん思い出を作った街を見据えて、胸元の指輪を握りしめて目を閉じた。
こんな事なら、もっと早くにちゃんと気持ちを伝えていればよかった。
これ以上あの人と歳が離れてしまわないうちに、もっともっとぶつかっていればよかった。
いろんなしがらみなんか振り切って、自分の中の素直な女の子の気持ちに、素直に従って行動していればよかった。
『折角こんな格好させてもらってるのになぁ…っ、また痛いの、くるんだ……小さくなっても、私の事見つけてくれるかな…』