第1章 00
「さんさん」
不意に黒服に呼び止められたさんはどこか怖さを感じるほどの笑顔で振り返った
「少しお話がありますので着替えてオフィスに来て下さい」
『…はい』
仕事後にも関わらず、嫌な顔ひとつせずに言われた通りオフィスへ向かう
コンコンと扉をノックすれば「入って」と短い返事が返ってきた
さんは 背筋を伸ばしながら扉に体を滑り込ませる
そこには葉巻をくわえ いかにも悪人だと主張する風貌の男がソファに身を沈めていた
「おぉ!!君がさんだね?」
さんを見るや否や、厭らしく視線を絡ませた
『えぇ…あの…こちらの方は?』
さんはその悪人面の男に臆すことなく同席していた店の関係者に問う
「この街を仕切る悪井組の会長さん、悪井太郎さんです」
その名前を聞いたさんは密かに表情を変える
その場の誰にも気づかれない様に
「なかなかでしょう?」「その辺のチンケなアダルトに出すには惜しい…」そういった会話を聞いて、普通の女ならば身を翻して逃げ出すに違いない
そのせいか、さんは体格の良い男二人に背後をマークされている
.