第8章 ミュシャ
案の定、和也は帰ってくるなり黙りこんだ。
「翔ちゃんに、嵌められたんだよ…」
「ふーん…」
「あれ?怒らないの?」
「…怒れるわけないでしょ…あんな喜んでる潤見てたら…」
「まあ、な…」
和也が帰って来た日、潤は大方の荷物を運び終わったところだった。
家の中でバタバタ動く潤をみて、和也はめまいがしそうになってた。
でもなんとかこらえて、俺に話を聞きに来たのだ。
「でも…」
「ん?」
「だめだ…我慢できないわ…」
そう言うと、俺の手を引っ張った。
ぎゅっと抱きしめると、俺の耳元で囁いた。
「ね…アトリエじゃ声が聴こえるかもしれないから…蔵いこ?」
「和也…」
「早く、二人になりたい」
「…うん…俺も…」
ぎゅっと手を繋ぐと、俺達は勝手口からそっと庭に出た。
手をつなぎながら蔵に行くと、鍵を開けて中に入った。
バタンと扉を閉めると和也が、抱きついてキスをしてきた。
俺もぎゅうっと抱きしめると、和也を壁に押し付けた。
電気を点けると、和也の顔をじっと見た。
「居ない間、淋しかった…」
和也が少し驚いた顔をした後、少し涙目になった。