第29章 特別編 天は大野のケツよりも青く
「そんな…中学生や高校生じゃないんだから…」
「ははっ…青春の頃の悩みは、己とはなんなのか悩み。大人になってからの悩みは他者とはなんなのか悩む。そこが大きく違いまさぁ…」
「ずっと悩んでんじゃん…」
「だから…道理がわかってくれば、悩むこたぁ減るんですよ。今のうちですぜ?坊っちゃん」
「ええ…もう、めんどくさいなぁ…」
だいたい俺は、悩むようにはできてないんだ。
「植源さん、頭がいいんだね」
「いいえ…アタシは、坊っちゃんよりも長く生きてるだけですよ」
「…もお…わかんねー…」
「何がです?」
「それってさ…悩むってことは、頭のいい人も一緒なのかな?」
「はっはっは…」
植源さんは豪快に笑うと、また一本たばこを取り出した。
火をつけると、うまそうにまたひとつ吸い込んだ。
「頭がいいやつは、いいやつなりの苦労があるもんでさぁ」
「例えばどんなこと?」
「さあ…そりゃ、頭のいいひとに聞いてもらわないと…」
「うへぇ…」
「でもね。いい大学を出ていても、いい職場に勤めていても、絶対悩まないことはない。それが単純であればあるほど…頭のいいやつぁ、悩むんでしょうねぇ」
どういうことだろ。
キョトンとしていると、植源さんはまた煙を吸い込んだ。
「愛だの恋だのですよ」