第29章 特別編 天は大野のケツよりも青く
「あれ…」
鉢植えの中に、元気のないやつがいた。
そういや、楠の近くに植えた若木もなんだか元気がない。
「植源さんに言っとくかぁ」
温室の水やりを終えてから、植源さんに電話をした。
植源さんには、来月からツアーが始まるから、定期的なお手入れを頼むんだけど、その前に知らせといたほうがいいかなって思って。
そしたら、ちょうど近くに来てるからって。
すぐに見てくれることになった。
「坊っちゃんお久しぶりです」
相変わらず、半纏に乗馬ズボンに地下足袋っていうスタイルで格好いい。
庭を一緒に見て回って、若木に肥料を足したりしながら、作業をしてもらった。
後は、来月から作業をするっていうことで、とりあえずは大丈夫ってことだった。
これから冬になるしね…
作業の終わった植源さんの鼻の頭が真っ赤で。
「植源さん、もしかして寒い?」
「ああ…平気ですよ」
「いやいや…あったかいお茶でもどう?」
「いやいや…そんな…」
とりあえず、小さい前庭に回ってもらって。
そこで縁側に座布団を出した。
あっついお茶を淹れて、灰皿とか用意していくと、また恐縮されて。
「坊っちゃん、すいやせんね」
半纏の内側のシャツの胸ポケットから、ハイライトの青いパッケージを取り出した。
一本取り出して火をつけると、うまそうにひとつ、吸い込んだ。