第19章 天は藍よりも青く
「いいえ!こちらが勝手に押しかけてきたんですから…」
潤が手をぷるぷる振ってる。
「今日、慌てて女房に詰めさせたものもあるんで…だから、本来のおせちじゃないんで…すいやせんね」
てへっと大角さんは笑うと、キューピーちゃんみたいになった。
かわいい…
おせちを頂いていると、玄関の呼び鈴が鳴ってお寿司が届いた。
江戸前特上寿司…
「こいつぁ、本物の江戸前なんで。どうぞ召し上がって下さい」
ご近所のお寿司屋さんは戦後から浅草にある隠れた名店だそうで…
江戸前というのは江戸の前にある、今で言う東京湾で採れたものを使った寿司という意味だ。
東京湾で採れないものは使っていないから、マグロとかなかった。
「これ、めっちゃ高そうじゃね?」
翔ちゃんがぽつりと呟く。
マグロとかないけど、東京湾で取れるであろう高級魚介類が惜しみなく使われていた。
ちょっと地味な色合いだったけど、高そうだなとは俺も感じた。
「うまい…」
なまものがダメな和也が唸った。
「ここの寿司屋は新鮮なものばかりじゃなくて、ちゃんとネタを熟成してるのもあるやすから…」
そう言って勧めてくれた赤身の握りは口の中に入って蕩けた。