第16章 IF…
体中の血が、沸騰した。
俺があんな目にあっていたのに、お前は…
リュカ、お前は…!
部屋に戻って、ベッドに顔を埋めた。
リュカの匂い。
あいつは…俺の手のひらに居ない。
もう出て行ってしまった。
遠くで、銃声が聞こえた。
地の底から響くような音も聞こえる。
一体何だ…?
窓の外を見ると、バスティーユ要塞のほうが明るい。
松明が何個も見える。
馬に乗った衛兵も見えた。
「ロラン…!」
部屋を飛び出すと、ロランの部屋に向かった。
ロランは既に起きていた。
「見たか」
「ああ…ガエタンは?」
「既に議会に知らせに行った」
二人で廊下を足早に歩く。
「もしかすると、ここを出ることになるかもしれない。準備はしておけ」
「わかった」
「俺はこれから屋敷の使用人を集めて、退避させる。お前も弟を
連れて、セーヌの方へ行け」
「…お前についていくよ」
「リオネル…」
弟は、もう居ない。
「まあ、そう言うな。ついていてやれよ…たったひとりの弟だろ?」
ロランはそう言うと、俺の肩を叩いて先に歩いた。
たった…ひとりの…弟…