第16章 IF…
それからの俺は、リュカの顔をまともにみることはできなかった。
一つのベッドで寝ながら、俺達は互いに距離を置いて生活していた。
リュカは俺のこと、怖いと言った。
俺のなにが恐ろしいと言うのだ。
バスティーユ要塞の中に行くのが、俺の日課になった。
回りをつぶさに観察して、どこに兵士が配置されているのか、頭に叩き込んだ。
面会にも何回も行った。
ガエタンからの手紙をシャツに隠して、面会の相手に会った。
相手から手紙を受け取る事もあった。
細くこよりにして、襟に埋め込んで持ちだした。
要塞の中に行く度に、頭のなかで図面を描いた。
ちょっとでも、役に立ちそうなことを兵士から聴きこんだら、ロランに報告した。
そうやっていれば、忘れられた。
あの黒い感情。
あれが一体なんなのか、わからなかった。
俺の仕事はまだあった。
街に出て、噂をばらまくことだった。
広場に集まるいい年の大人に、いろいろ吹き込むのが俺の役割。
新聞なんて字が読めないから、市民でも理解してるやつなんてほとんど居ない。
字が読めるのはインテリだ。
そんな奴らよりも、多くいるのが俺たちみたいな市民で。
その市民を味方につけたほうが、勝つんだ。
ガエタンはそう言った。