第16章 IF…
「どうしたの…?兄さん…」
「なにが…?」
「どんな仕事なの?危ない仕事なの?」
ぎゅっと俺の上着を握って離さない。
「さあ…よくわからないよ…」
なんでお前は女に見とれるんだ。
俺がこんなに危ない橋を渡ろうとしてるのに。
なのになぜお前は…
「兄さん?」
黙って俺は立ちあがった。
「あの女中、可愛いな」
「えっ…」
窓の外をわざと見てやった。
「お前見とれていただろう」
「ち、違うよ…」
「嘘つけ」
窓に歩み寄ると、一層女中がよく見えた。
「お前、あんなのが好みなのか」
「だから違うって…兄さん」
リュカはシーツを頭まで被ってしまった。
俺はそれを無理やりはがすと、リュカの顎を持ち上げた。
「兄さん…」
「正直に言えよ…」
「兄さん…怖い…」
怖い…?
俺が…?
「言えよ。見とれていたんだろ…?」
「違うよ…母さんに似てるなって思ったんだよ…」
リュカの細い首に手を掛けた。
「え…兄さん…?」
「お前は…どうして…」
「苦しいよ…兄さん…」
力を入れるつもりはないのに、その細い首を握っていたら、どんどん力が入る。
「お前はどうして…」
どうして俺の手のひらの中だけで満足しないんだ。