第16章 IF…
次の日、リュカを連れてバスティーユに行った。
朝の仕事を終えたあとだったから、クタクタだったけど、気分が高まっていたから気にならなかった。
「兄さん…怖いよ…」
あまり外にでないリュカにとっては、外は恐ろしい場所。
それに衛兵や国民議会と貴族たちが揉めだしてから、街は荒れ放題に荒れていた。
リュカの知っているパリはもうどこにもなかった。
「大丈夫だ。兄さんがいる」
年の割に幼い弟の手を取って、俺は歩いた。
あの貴族の屋敷に裏から入って、裏口から訪いを入れる。
ロランを呼び出すと、すぐに出てきた。
「やあ!来たか!」
ロランは文人にはふさわしくない物腰で、俺達を歓迎した。
そのまま俺たちには一部屋あてがわれた。
「兄さん…こんなところで暮らせるの?」
リュカがおどおどしながらベッドに腰掛ける。
俺達がずっと住んできた部屋よりも、何倍もいい部屋だ。
「ああ…俺たち、ここで働けるんだ…」
俺も呆然としている。
貴族の屋敷なんて、厨房くらいしか入ったことがない。
こんないい部屋で暮らしているんだ…
ロランが顔を綻ばせて俺たちを見ている。
「さあ、リオネル。仕事の説明をしよう」