第16章 IF…
ジョエルが固く焼きしめたパンを投げてよこした。
「それ食いながら行ってこいよ」
「…ありがとう」
ジョエルは知ってるんだ。
俺達が、ここ数日まともに食ってないこと…
リュカは25歳になるが、幼い頃から身体が弱くて、働くことができない。
そんなリュカを抱えて、俺は恋人を作ることもできず、親もなくして、毎日手を真っ黒にして働いてる。
楽しい事なんて何もなかった。
いい大人は、皆、王様と貴族の悪口を言い合ってる。
くだらない…
そんなことを言い合ってるなら、俺にパンをくれ。
お腹いっぱいパンを食べさせてくれ…
硬いパンをかじりながら、石畳を歩いて行く。
たまに馬に乗った衛兵とすれ違った。
じろりと偉そうに馬上から俺を見下ろす。
…お前が偉いわけじゃないのに…
なぜ他人を見下す。
お前が偉いんじゃない…お前に命令してる奴が偉いんだろ…?
恥ずかしくないのかよ…威張り散らしやがって…
背中に背負った、たくさんの籠。
こんなものを欲しがる奴は、誰もいない。
だけど、大事な店の商品だ。
傷つけられないように、回りに目を配りながら歩いた。