第16章 IF…
おなかが減った…
市場に向かう途中にあるパン屋。
ここのおばさんはいつも、俺にパンをくれた。
でもこの店にも、火は灯っていない。
衛兵たちが寄ってたかっておばさんを叩きつけたからだ。
俺たちは市民の味方なんだと喚きながら、パンを差し出さないおばさんを殴ったんだ。
なにが味方だ。
じゃあなぜおばさんを殴る。
金も払わずパンを奪おうとしたから、おばさんは抵抗したのに…
市場について、野菜の切れ端を懐に入れながら進む。
賑やかな人の声と、その人達が出す音。
ここは…ここだけは変わらない。
変わったことといえば、俺の腹はいつもいっぱいになることがないってことだけ。
「おはよう、リオネル」
店に入ると主人が微笑む。
俺の働いている店。
野菜を入れる籠を売っている。
籠を作っているのは、ここの主人だ。
「おはよう、ジョエル。今日の配達は?」
「今日は市場の外だ。行けるか?」
「ああ…衛兵のいないとこならね」
衛兵と市民は結託してる。
貴族からむしりとってやろうと、虎視眈々と機会を伺ってる。
そんなこと、俺たちには関係ない。
関係ないけど、物騒でしょうがない。
「衛兵がいないところなんて、このパリにゃ、ないよ…」
ジョエルは鼻まで下がったメガネをずり上げた。
「ちょっと遠いけど、バスティーユの近くだ。行けるか?」