第15章 サロメ
和也の手が俺の首にかかった。
『お前が、そんな目をしてるからだ』
『兄さん、怖い。やめて…』
『お前のその目が…俺を狂わせるんだ…』
『兄さん!』
息を飲んだ。
和也の顔が、大きく歪んだ。
ぽろぽろと涙を落とすと、いきなり俺を抱き寄せて、ぎゅうっと抱きしめた。
「和也…」
「ありがとう…智…」
そのまま、いつまでも和也は泣いた。
静かに、静かに。
「俺、殺せないなぁ…」
「ん?」
「弟…、殺せないや…」
「むふ…もっと悩めや…」
「人事だと思って…」
「悩まない役者なんて、役者じゃねーよ」
「…うっさい」
階段に座りながら、二人でずっと話した。
話し声に気づいた潤が部屋から出てきて、呆れて俺たちを見ると台所から缶ビールを持ってきてくれた。
「一本ずつ飲んだら寝よ?」
「うん…」
潤も階段に腰掛けて、缶ビールを開ける。
「乾杯」
深夜の酒盛りは、静かに流れた。
俺たち三人は、いつまでもそれぞれのことを考えて、思考が纏まらないまま、黙っていた。
でも…
やっていくしかないんだ。
俺たちは、迷いながらも前に進んでいくしかないんだ。
答えなんて、どこにもないんだから。