第1章 家
「家ぇ!?」
「はい。港区の一軒家。こちらを大野智さんへ譲渡するということになります」
弁護士が書類を広げた。
なんちゃら言われてたけど、ちんぷんかんぷんで。
かあちゃんの顔をみたら、しょうがないわねって顔して、全部代わりにやってくれた。
どうやら相続税とか払わなきゃいけないらしい。
それが高額だから、芸能人の俺のとこに話が回ってきた理由のひとつみたい。
大叔母はこの家をどうしても他人に譲りたくなかったらしい。
たった5年ほど一緒に暮らした旦那さんとの思い出の家だからって。
その話をきいたら、なんだか迷惑だと思っていた自分が恥ずかしくなった。
とうちゃんが大叔母の写真を見せてくれた。
おばあちゃんなのに可憐な少女のような人だった。
白い髪をひっつめにして、うすく化粧した顔で微笑んでる。
遺影に使った写真だそうだ。
色白だし、瞳はつぶらだし、若い頃は相当可愛かったに違いない。
「遺品などは全て整理されていますが、一箇所だけ…」
「え?」
「どうしても処分しきれなかったものがある所があります。それをどうされるかは、相続人、つまり大野智さんのご意思に任せるそうです」