第1章 家
「…わかりました…」
と、いうことは俺に住めって言ってる?
「あ、住むか住まないかは大野さんのご自由ですが、故人のご意思としてはなるべくなら住んで欲しいとのことです」
「はぁ…」
とりあえず見てから決めようと思った。
どんな家なのかも俺は知らないのだから。
「それから、相続税対策もしてはあるんです。大野さんからの持ち出し分はこれくらいの金額になります」
弁護士がまた書類を出してきた。
もう辟易した。
書類苦手…
当初の税額よりも半分でいいらしい。
それにしたって高額だ。
まあ、そのへんはかあちゃんが全部やってくれるから俺は金出すだけだ。
任せよう。
一軒家に住むかもしれない。
もしかして絵をたくさん描けるかも。
そう思ったら、なんだか乗り気になってきた。
ばあちゃんの意思もあるし。
自宅にアトリエを持つことができるかもしれない。
「あ、大野さん確か絵を描かれますよね?」
男性弁護士は、メガネをきゅっと上げながら俺を見た。
「え?あ、はい…」
「故人が絵を嗜まれていたので、アトリエがありますよ」
俺の意思は一発で決まった。