第3章 引っ越し
コンコンとドアを叩く音がした。
振り返ると、ニノが開いたドアに寄りかかってた。
「お風呂、入れるよ」
そう言って小首をかしげた。
「や、先に入れよ」
俺はまた目を逸らした。
「ここ、入ってもいい?」
「え?別にいいよ?なんで?」
「いや、なんかアトリエってその人の聖域みたいなもんじゃん」
そういうと、そろそろと入ってきた。
「ふーん…おばあちゃん、大事に使ってたんだね…」
「…なんで?」
「だって、凄くきれいだもん。絵の具とか全然こぼれてないじゃん」
やべ。俺、こぼしそう…
気をつけよう…
ニノは愛おしそうに作業台がわりの、ダイニングテーブルを撫でた。
「いいね…ここでどんな絵書いてたんだろ。おばあちゃん」
月明かりに浮かぶニノの横顔はとてもきれいで。
思わず俺は見とれてしまった。
ニノがふと俺を見た。
薄く笑って、俺に向かって手を伸ばしてきた。
頬を撫でていく。
「いこ?お風呂…」
そういうと、俺の手を取って立ち上がらせた。
心臓が痛い。
そのまま俺の手を引いて、ニノは俺を風呂場に連れて行った。