第1章 四月一日。
そして意地の悪い笑みを浮かべて、キラの顔を覗きこんでくる。
「せっ…」
その顔の近さに、ドキリとしたのもつかの間。
「Ms.ミズキ。教師をからかうのはやめることだ。罰則を言い渡す」
「え…ええ?!」
「鍋洗い、マグル式だ」
「な……」
「では、授業の準備があるゆえ、退出願おう」
「せ…す、スネイプ教授?!」
わざとらしい口調でキラを部屋の外に押し出す。
「20時だ。忘れぬように」
セブルスは念押しのようにそう言って、がちゃりと扉を締めた。
「え、えぇぇ……」
どうしてこうなった。
(嘘だって言っても、罰則は免れないよね…)
からかわれているとセブルスが思っている時点で嘘だと思われているということで。
(うう…けっこうキツいな……)
彼の片思い期間よりは短いけれど、こちらだって四年の片思いだ。
自分で嘘としてでもいいから伝えようと思ったわけだが、やっぱりやめておけば良かった、と後悔する。
(これが本当の四月馬鹿ってやつかな…)
夜20時前。
キラはひどく複雑な気持ちで魔法薬学の教室前に立った。
(会えるのは嬉しいんだけど…罰則は嫌だ…)
鍋洗いは大変なのだ。
長時間居座って寮まで送ってもらうという手も考えたが、彼はキラの普段の手際の良さを知っているのであまりもたもたしているとさらに怒られそうな気がする。
はぁ、とため息をついて、鍋が積み上げられているであろう教室に入った。
「…あれ?」
鍋がない。
ついでに彼の姿もない。
「スネイプ教授? いらっしゃいませんか?」
奥の準備室にいるのかと声を掛けてみても、人の気配がない。
(もう20時だよね…セブルスが時間に遅れるなんてある?)
何かあったのだろうかと心配になって、キラはセブルスの研究室へ行くことにした。
「ミズキです。スネイプ教授、いらっしゃいませんか?」
コンコンコンとノックをすれば、間もなく部屋の主が現れた。
「あの、罰則は…?」
恐る恐る尋ねるキラに、セブルスはニヤリと口の端を歪める。
「嘘だ」
「へっ?」
「君と同じく、嘘をついた」
今日はそういう日だからな、と悪びれない様子。
「う、うそ…」