第1章 四月一日。
地下の、黒い扉の前。
先ほどからキラはノックをしようと手を握ってはやめ、握ってはやめ、を繰り返していた。
(やっぱりやめた方がいいかな)
でも、こんなチャンスは中々無いのだ。
午前と午後一度ずつ会わなくては成り立たない。
だから、授業の前に急いでここまでやってきた。
キラは意を決して扉を叩く――つもりだった。
「…人の部屋の前で何をしている」
「あ……ごめんなさい」
部屋の主によって扉が開いたため、ノックする手が宙ぶらりんになったまま、キラはへらっと笑いながら小さく会釈した。
「スネイプ教授…お邪魔しても?」
「あぁ」
快く研究室に招き入れてもらえるのは、ホグワーツ中を探してもきっと自分だけだ。
それが嬉しくて、キラは週に三度ほどセブルスの研究室に訪れていた。
本当は毎日来たい。
しかし監督生といえど、あまり入り浸るとセブルスが贔屓している、などと言われると困るので、多少なり我慢している。
「今日は何の用だ?」
昨日も来たのに、という顔を彼は隠しもしない。
「ええと、お話しがありまして」
神妙な顔つきのキラに、セブルスはほんの少しだけ顎を突き出す。
「…手短に」
「あ、あの…」
これは嘘。
後で嘘ですよ!と笑って、無かったことにする言葉。
受け入れられないとわかっているから、今日の日に乗じて伝えるだけ。
「せ、セブルス」
久しぶりに口にする彼の名前。
キラを見つめる彼の目がぴくりと動いた。
「好き、です」
嘘だけど、嘘じゃない。
嘘じゃないけど、嘘だから。
「………そうか」
セブルスの黒い瞳がキラを射抜く。
「話は、それだけか?」
「は、はい」
(え…何の反応も、ない…?)
何をふざけたことを、と鼻で笑われるか、驚ろかれるか。
そのどちらかの反応を予想していたのに。
「――全部の授業が終わったら、また来い」
「え?」
唐突な言葉にキラは面食らう。
「好きなんだろう? 私のことが」
そっと、セブルスがキラの長い髪を一束すくい上げる。