第2章 第一章 雨の日
またてめぇか、と彼岸花の髪を離して少女が立ち上がる。……………座敷で悲鳴が上がった。
歩き出す少女。彼岸花はこれから起こるのであろう出来事に絶句した。
これが、主……………………………………………………………いや、違う。
彼岸花の横を通りすぎる少女。その腕を、彼岸花はすがるように掴んだ。
「……………触んな。気色悪い」
振り払われた手を握り、親指をたてる。
そして、少女の見てる前でそれを下げた。
すすり泣く声をかき消すように、彼岸花は叫んだ。
「誰が、ゴミだ!この性悪女!!!」
それは、1つの地獄の始まりにして、宣戦布告。
少女の目が見開かれた。
「主だろうが容赦はせん!!つーか、お前は主じゃねぇ!!独裁者か!口が悪いぞ!!」
叫びつつ、一発かましてやろうと拳を振り上げた。
「っ!やめろ!!」
響いた声は、金髪の青年の声。主を庇おうとするその精神は素晴らしいが、彼岸花は直感的にここままではいけないと思っていた。
少なくとも、今は引けない。刀生のターニングポイントだ。
拳が放たれる。彼岸花だって、女子といえど刀剣の端くれだ。当たれば、ただでは済まない。……………なのに、少女は防ぐことも、逃げることもしなかった。
ただ、その目を少し、細めた。
それは、覚悟を決めたいたのか、それとも逃げることすら忘れていたのか。少なくとも、今の彼岸花には解るはずもない。
何時だって、間違えてから初めて間違いに気付くものだ。……………人も、刀剣も、心あるものは皆。そうだ。
鈍いを通り越して、何かが砕けるような音が響いた。
女の悲鳴が上がる。
何もかもが、解りきっていた結果。少なくとも、大多数の者は予想ができていた。多数決という方法においては、大勝利の真実。
間違いのない現実。
ただ問題がひとつあった。
それは、悲鳴をあげたのが彼岸花の方だったということだ。
叫ぶ声。拳に走る痛みは、背中の比ではなく、また体験したこともなく。
痛みが引く事もなく蹲れば、容赦のない蹴りが顎にいれられた。
目を開け、天井ではなく、少女の顔を仰ぐ。
少女が呟いた。
「ここでは、私がルールなんだよ。逆らうのも、破るのも、許されない。」
「それが理解できないなら、首つって死ね。ゴミ。」
すすり泣く声が本格的な泣き声へと変わった。