第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
ーーー「ただいま、帰りました」
男は呟いた。
それは、夕闇に染まった時での出来事。
彼岸花は、その男を見て、目を丸くした。
「ど、ドッペルゲンガー?」
ーーー雨の日より、二日後。
彼岸花はとある人物に呼ばれ、ある部屋まで来ていた。
その、とある人物とは………
「ねぇ、聞いてるの?君のせいで今、こっちは内乱状態なんだけど」
目の前の眼帯青年である。
名前は、先程聞いた。
「内乱状態、と言われましてもねぇ。私のせいじゃないに一票。」
「君のせいに僕とくりちゃんで二票。」
「おい」
燭台切の発言に、壁に凭れていた大倶利伽羅が不機嫌そうに突っ込んだ。
彼岸花が呼び出された場所は、とある空き部屋。
この部屋だけは埃が一切ない為、もしかしたらここだけは普段から利用しているのかもしれない。
そんなことを考えながら、彼岸花は今聞いた話を纏めていた。
昨日の事である。
早朝、雨が止んだのをきっかけに彼岸花と歌仙は屋敷へと帰った。
歌仙は何やら忙しいとかで、さっさと道場に戻ってしまった。
彼岸花も彼岸花で、まだ眠り足りなく、最近お気に入りの角部屋にて睡眠をとることにした。
そして、目が覚めると再び倉の整理をしにいく事にした(一昨日は歌仙の発狂で進まなかった)。
そして、屋敷に帰って来たとき、事件は起こった。
庭から縁側に上がろうとした矢先、目の前には燭台切が。
『話があるんだけど、明日、またここに来てくれるかな?』
……………あれは、此方の予定を確認する口調じゃなかった。
結局逃げる事も出来なかった彼岸花が縁側に行った後、この部屋に案内された、というわけである。
燭台切の話というのは、先程も言っていた内乱の事である。
何でも、歌仙を筆頭に数名が三日月宗近へと反論をしたのだとか。喧嘩沙汰にはなっていないものの、このままでは刀剣の間でも争いが起こってしまう。
そう思った燭台切は唯一この内乱に関わっておらず、しかし当事者である彼岸花に話を聞きに来た、という訳らしい。
因みに、現在この部屋には彼岸花を含めて六名の刀が集まっている。
さっきから一言も喋ろうとしない三名は、なんとご兄弟だとか。
(左文字兄弟、ねぇ)
何とも、穏やかじゃない雰囲気の刀達だ。
「話って言っても、こんな殺伐とした中でやるもんじゃないでしょ」