第2章 はじめまして私の異能/太宰さん
「慌てることは無い。此れは全て、武装探偵社の入社試験なんだよ」
入社試験?
「私は武装探偵社調査員の太宰治だ。彼は、私の後輩の中島敦君」
言葉とともに、さっきの角から痩躯の青年が姿を現した。彼は苦笑いして、私に一礼する。目にかかる白髪は先程の虎を彷彿とさせた。
鞄を抱えて冷や汗を流す私に、太宰さんが片頬で笑った。
「あの、さっきの虎は!? 入社試験ってどういうことですか!?」
「場所を変えようか」
あんなに迷っていた住宅街からすんなり抜け出た私達は、武装探偵社の社屋へとたどり着いた。セーラー服の少女から出されたお茶をすすり、ソファの太宰さんを見やる。
「先ず最初に、我が社には武への適正を試す入社試験が在る。本来此れは事務員には課さないんだけど、最近は物騒なものだから、小泉君にも受けて貰う事になった。議論の結果、今回の主題は『街で虎に出くわした時の対応を見る』という物だった。あの虎は、人虎の敦君が化けた物だ」
荒事中心の武装探偵社だから、入社試験があるのは分かる。しかし、あの虎は先輩だったんだ。街を騒がせた大虎と瓜二つだったから、つい取り違えてしまった。叩いてしまったこと、あとで謝っておこう。
太宰さんによると、虎に立ち向かった勇気、そしてすぐ逃げられた判断の速さが評価点となったらしい。
そして何より、『見知らぬ他人』の太宰さんにも声を掛け、助けようとした公徳心が決め手となった、そうだ。よくわからないけど、合格できたからいいや。
「社長は急用で出掛けていてね……先に、明日から一緒に働く事務員仲間と挨拶をしておこうか」
明日から、一緒に働く。喜びで手が震える。
遂に私は武装探偵社の一員になったんだ! 明日から――いや、今日から目一杯頑張ろう!
■
使い終わった湯のみを下げるナオミに、太宰が話し掛けた。
「感じたかい?」
「少し肌寒い程度でしたが、暴走したらと思うと」
面接の際、擦れ違った彼女から異様な冷気を感じた。冬でもないのに窓ガラスやコップが曇り出し、室温計が異様な数値を叩き出した時、疑念は確信に変わった。
小泉やくもは、異能者だ。
「早めに対処しなければね」
太宰が目を伏せた。