第2章 はじめまして私の異能/太宰さん
次の瞬間、視界に白が炸裂した。薄氷が床や壁に一気に張り付き、進み、私達を守るように強盗達に絡みつく。強盗たちのうちの何人かは、醜い叫び声を上げて失神してしまった。さながら、ゴルゴダの磔。まあ、この強盗たちは聖人なんかじゃないけど。
一方人々は安堵から涙を流していた。これで助かる! 一気に歓声が上がる。けれど氷は、私の心の中まで凍りつかせてしまったようだ。
「……んじゃえ……」
拳を震わせる。私は、吼えた。
「死んじゃえ!」
叫びとともに、足元に広がる氷が刺々しさを増す。鋭利な切っ先を強盗の心臓に突き立てようと、氷達が這った。
――武装探偵社の私が、皆を救うんだ! こいつらを殺して!!
憎しみで顔が歪んだ其の瞬間だった。誰かの温かな手が、私の背中をぽんと押した。あの声が、響く。
「異能力。――『人間失格』」
「なっ……」
バランスを失った私は、床によろめく。その身体を、ナオミさんに支えられた。
いつの間にか、騒ぎを聞きつけた探偵社が助太刀に来たらしい。先程にオフィスで見かけた先輩社員達がフロアを清掃したり、
私は太宰さんを睨みつける。
「どうして止めるんですか!?」
「武装探偵社は、依頼がないと動かないからだよ。それに君はただの事務員だ。人殺しなんかしてはいけない」
珍しく、太宰さんは苦い顔をしてみせた。この表情を、私は知っている。そう、この顔は、過去を思い返すときの顔だ。
私はうつむいて、太宰さんにつぶやく。
「済みません。私、ついわれを失ってしまいました。懲戒解雇も受け入れます」
「懲戒なんてとんでもない。あそこの敦君だって探偵社に来る前は迷惑な事をしたもんだし、乱歩さんだって『異能』を自覚するまではずっと葛藤していた。異能力者にとって、人に迷惑を掛けるのは入り口みたいなものだ。掛けた迷惑を異能で償っていけばいい」
「えっ!? ままま待って下さい! 私、異能力者なんですか!?」
「そうだよ。見たところ君は、空気中の水分をコントロールして氷を発生させる異能を持ってるらしい。実のところ、いざ攻め込まれた時、事務員に異能力者がいないというのも怖いから、君を採用したんだ」
もうわけがわかりません。でも太宰さんは笑ったままです。
「改めまして、探偵社へようこそ。我が社初の、異能力者事務員ちゃん!」
