第12章 本能寺(長谷部の章)2
さて、部屋を出た審神者は手入れ部屋の外から鯰尾に声をかけて少し話をした後、更に他の刀達に声をかけに行った。
誰も不安そうではあったが、なんにせよ戻ってこられたことには安堵をしていたし、宗三も加州も余計なことを口にしていなかったため、事態の深刻さがまだわかっていない様子だった。
それでいい、と思いつつ大部屋を離れる審神者。
普段あまり使わない、何一つ調度品がない部屋で山伏と御手杵は静かに待っていた。
「お待たせ。食事は終わったんだよね?」
頷く山伏と御手杵。
審神者は二人の前に「どっこいしょ」と腰を下ろした。
それから、長谷部・薬研両名のことのみならず、何故戻りが遅くなったのかを審神者は決して責める風ではなく穏やかに問いかける。
最初は御手杵が、あまり要領は得ないけれども聞いている審神者が困らない程度の説明を始めた。
鯰尾が負傷をした直後、長谷部は言いつけ通りにすぐに帰ろうとした。
だが、何故かこの本丸への道しるべの「光」が見えずに困っており、その最中に更に敵部隊に襲われ、鯰尾は更に怪我を深くしてしまったとのことだった。
戦っている間に本能寺に近づきすぎ、気づけば「本能寺の変」が発生したようで、煙があがっているのを見たのだと言う。
「でも、ここの光を最初に見つけたのは長谷部だったから、そん時はまだはっきりしてたんだよな」
御手杵がそういえば、山伏は「いや」と即座に否定をする。
「既におかしかった。が、それ故に見つけたのだろう」
「どういうことだよ」
「光とは、求める者には殊更明るく見えるだろうからな」
「なんだそりゃ、俺たち全員必死だっただろ」
御手杵は心底「意味がわからん」という感じで言ったが、審神者は表情を曇らせた。
ちら、と審神者のその表情を山伏は間違いなく確認した。が、わざとか、御手杵に説明をしている体を装って言葉を続ける。
「拙僧たちは、帰らねば、と焦っていた」
「おう」
「長谷部は、それよりも更に強い何かを求めていたのだろうと思う」
ぽかんと山伏を見る御手杵。
いつもの彼のように、カカカ、と笑い飛ばして終わりにしてくれるのではないかと思ったが、彼にしては珍しく神妙な面持ちだ。山伏はで静かに視線を審神者に向けた。
「話が飛んだゆえ、少し順を追ってお話しいたそう」
「うん。そうしてもらえると助かる」
