第19章 改変の傷(2)
「それって、ねえ、もしかして」
はっ、と加州が声をあげる。仲が良いのか何なのか、同じタイミングで乱も
「まさかとは思うけど」
と正座の膝を浮かせた。薬研も同じことを気づいているのだろうが、静かに審神者の言葉を待っているだけだ。
「石切丸の記憶の欠落は、改変の影響だと推測された。それに至るまでのデータとかそういうものは、わたしには理解できないが、解析の結果らしいから、ほぼ間違いないよ」
「そのように、これほど直近にまで影響が出るものなのでしょうか。歴史改変とは」
小狐丸が腑に落ちぬように尋ねれば、審神者はれへ力強く頷く。
「影響は、未来になればなるほど大きくなるから、むしろ直近の事象にこそ現れる。人の心や感情よりも、もっと物理的にわかりやすい形のものが先に歪みが見えるから、それなのだろう」
「心や感情も歪むの?」
眉根を潜めて尋ねる加州。
「歪む。当然だ。歴史の一部に人間がいて、人間の言動の核に感情がある限りは。それでも、それはとても見えづらいからね。順番が心や感情側が先だろうが、我々が感知出来るのは物理的なものが先ってこと」
難しい話は置いといて、と審神者は一旦その問答を保留にした。
「それでね。今回の解析で、やっぱりまだ本能寺の変付近がおかしいって話になったんだ」
薬研の表情が一気に曇る。加州も乱もちらりと彼を見て、それからすぐ審神者に視線を戻した。
「なので、束穂同行でまた本能寺に向かってもらいたいんだ」
「じゃあ、俺っちが行こう」
あっさりと薬研が言うと、加州が声をあげる。
「また、変になっちゃうかもじゃん」
「なったらなったで、改変が進んでるんだなってわかるからいいだろ。その時はまた大将に無理させるけど、当時のことがなんとなくわかる俺っちがいった方がいいんじゃないか?」
「うん、薬研に行ってもらえると助かる。この前のトラブルに巻き込まれた薬研と長谷部。それと、山伏。三人で部隊長交代しつつ、本能寺付近を巡回して欲しい。勿論、短刀を束穂の護衛につけてね」
「いくらでもいくよ」
乱が手をあげる。それへ、がっかりしながら小狐丸が
「小狐と呼ばれるほど小さければ、わたしも護衛になれましたものを」
と言ったが
「小狐丸は束穂がいないときにここに残っても役に立たないんだから、喜んで出陣するといいよ」
と加州が笑えば、みなも笑い声を漏らした。
