第11章 本能寺(長谷部の章)
普段、過去に遡った刀達は審神者が本丸に作り出した道標となる「光」を感知して戻ってくる。
彼らがその光へ向かおうと意識を向ければ、過去から現代への「審神者が開いた道」が現れ、そこをほんの数分歩くだけで戻ってくることが可能だ。
その道は、束穂には「静かな洞窟」のように感じられる。
刀達に聞けば、誰かは「水が渦巻いてぽっかり出来た空間」と言い、誰かは「黒ではなく紺色の、星が明るい夜空の色で包まれている」と言い、誰かは「密集した木々が絡み合って作った門が無数に続く」と言う。
誰ものイメージは違うといえ、トンネルのようなものなのだろうとわかる。
なんにせよ、束穂にはそれが「洞窟」と思えるため、その洞窟に侵入しようとする異物を排除する結界を張った。
刀達だけが通れるというフィルターを作り出すのは、プロジェクト開始前に習得をした。そうでなければ、本丸そのものに対する結界を張るのも難しいからだ。
人を選ばない結界は簡単だし、選ぶとしてもそれが数人ならばそう難しくはない。だが、刀はどんどん増えていくから、個々のマーキングのような操作は難しい。
そのうえ、そもそも束穂のような能力を持つ人間は少ないため、簡単に「習得をした」と言っても、指導者と言える立場の者もなく、相当な苦労を強いられたのだが。
そういったわけで束穂は相当に稀有な才能と能力、そして独学で己の能力を鍛錬する努力も怠らない貴重な人材なのだが、誰とも比較出来ないため本人に自覚はない。
話は逸れたが、審神者が刀達のための道を束穂に強化してもらい、結界を張って20分程経過した。
帰りたい、と彼らが集中していれば、とっくに戻ってきてもおかしくない時間だ。
戦っているのだろうか。それとも。
刀達はもう食事を終える頃だろう。出来ればみなが心配して出てくる前にことを終わらせたいと審神者も束穂も思っている。
「ご無理なさらず」
「うん、まだ平気だよ」
「お疲れになったら一度閉じた方が」
「まだ大丈夫。病み上がりだしね、無理はしない」
審神者が先日倒れたのは、自分のために三条の太刀や大太刀を呼ぼうとしてくれていたからだと束穂は知っている。それに、自分の力で審神者の死期を早めた過去もあり、つい慎重になってしまう。もちろん、審神者はそんな彼女の気持ちも理解をしているはずだが。
