• テキストサイズ

【刀剣乱舞】守護者の恋

第11章 本能寺(長谷部の章)


「さて、では、迷子になっているのかそういうわけではないのか、道を開こう」
審神者はそう言って立ち上がり、玄関に向かった。
彼はいつも刀達を見送って「帰ってくるための印」をつけるために朝玄関に赴く。
その「印」を刀達が見つけられない状態なのではないか、という危惧を抱いているのだ。
あれだけ怪我人を出さないようにと、心を曲げてまで従っている長谷部の部隊が、一度の出陣で突然全滅をするはずがない。欠けていないことは明白だが、それとは別に信頼がある。
「あとは、何かにね。憑かれてないといいけれど」
朝、印をつける行為はとても簡単な儀式だ。
詠唱をして、宙で指で印を切って門を指し示すだけ。それにたまに立ち会うと、束穂の目には何も見えないが「何かがそこで低い輝度で光っている」と「感じ」る。感じるだけで、どこが光っているのかはわからないのだが。
そして、刀達は「見える」と言う。
過去に遡った刀達は、帰ろうとみなで念を集中すれば、勝手にその「見える」光が見えてきて、勝手に現代に戻ってこられる。便利なようだが、肝心なのはその束穂には見えない「導く光」の力だ。
審神者いわく、刀でも束穂のように「見えない」時があるそうだ。それがどういう時なのかは言葉にはしなかったが。
その、朝の儀式と似た様子で詠唱をする審神者。
知らない人間が見れば、神社の神主の祈祷ではないかと思う雰囲気だ。
刀の誰かが「主は陰陽師のようだ」といつだったか言っていたことを束穂は思い出す。
夏に近いため、夕食が終わった今の時刻にようやく夜のとばりが下りてきた。一気に世界は暗さを増す。その中で、審神者はいつもよりも長く何かを唱え、それから「よいしょ」というまことに締りのない言葉を口にした。
「っ!」
道が、開けた。
束穂は直感でそれを嗅ぎ取って、自分が「道」だと認識した空間を外圧から守ろうと力を発動させる。
ちら、と審神者を見れば、彼はいつもと変わらぬ様子で、束穂の能力によって干渉を受けている風ではなかった。それに安堵の溜息ひとつ。
何人かの刀達が心配そうに様子を見に来たが、後ろで控えている加州が手を「しっし」と振って部屋に戻した。
/ 160ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp