
第11章 本能寺(長谷部の章)

戦って、相手切って、勝って、なんぼ。
そういうものなのだろう、刀とは。
けれど、道具はそれを使う者が必ずいる。その人がそれを望んでいるかどうかはまた別の話だ。
審神者は共に戦いに出るわけではないから、道具として使う人間がそこにおらず、道具としての彼らは自分達の判断で戦う。それは、とても危ういことなのだと初めて気づいた。
人の姿になっていても、人の心の機微を解するかどうかはまた別の話だ。人同士でもわかりあえないのだから、それは当然だと思う。
(長谷部さんはいつも主のことを思っているけれど)
刀の彼らほど長く生きていない自分でもわかることがある。
主である審神者は、彼らを道具として扱っていないということだ。
そう思えば、わかりあうことは最初から無理なのかもしれない。
長谷部、加州、薬研、最近は一期一振や蜻蛉切あたりは、よく部隊長として刀達を率いて出陣をしている。
薬研、一期一振は、短刀を率いていることが多いため、深追いをすることは少ない。長谷部、蜻蛉切は、太刀や抜刀を率いることが多いせいか、少し深追いをしがちだとは聞いていた。
だが、今日の乱の言葉からは、長谷部は特別そういう傾向があるようだ。
それに、審神者の命令に従って早期撤退することがストレスになるということは……。
(怖い人ではないはずなのに)
うどんを丼に移し、煮揚げをのせると、複数の静かな足音が聞こえてきた。
台所の隅にある小さなテーブルで夜食を食べていくに違いない。そちらに丼を移すと、ちょうど二人が顔を見せた。
「手入れ終わったんですね。おうどんどうぞ」
「ありがとう。こんな時間に申し訳ないね」
と笑いながら入ってくる燭台切と
「あまり腹は減ってないが……」
なんていいつつも、おとなしく椅子に座る山姥切。
「長谷部さんはお休みに?」
「ええ?長谷部君?会ってないけど。起きてたのかい?彼」
「はい。さっきまでここに」
「ふうん……いただきます」
「いただきます」
二人はうどんをすすりだす。その様子を見てつい気が抜けて、束穂は小さなあくびをひとつ。
山姥切に「後片付けはする。眠っていい」とぶっきらぼうに言われる始末。
「お言葉に甘えますね。おやすみなさい」
手入れをした刀は、翌日出陣は行わないと決められている。彼らは朝寝坊をしても怒られないが、束穂は朝食の準備をしなければいけないのだ。
