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【刀剣乱舞】守護者の恋

第9章 本当の名前


落ち着いたところで、束穂は小狐丸が消えてしまった後の本丸のことを話した。
最後には自分がわがままをいって現代に戻ってしまい、審神者の遺言に従えなかったこと。
そして、未熟な己が招いたすべてのことを呪って、三日月を救おうとしてくれなかった上層部を呪って、無意識に本丸を守ろうとその空間を能力で閉鎖してしまったこと。
箍(たが)が外れたの力は思いの外大きく制御出来なくなり、そのまま能力を放出し続けて死にそうになったところ、助けてくれたのが今の審神者であるということ。
一通り聞き終えると、小狐丸は「甘いものはありますか」と珍しいことを口にした。
束穂は棚から金平糖を取り出し、小皿にそれを出して小狐丸の前に置く。
「これはかわいらしい」
小狐丸は笑って、それからまた束穂を手招きする。
また尻尾を触らせてくれるのだろうか、とおずおずと近寄ると、つまんだ金平糖を束穂に向けて突き出す小狐丸。
「?」
「ねぎらいじゃ。よく頑張りましたね。今は何も持たぬ身ゆえ、いつかそのうち本当のねぎらいをあげましょう」
「え」
「ほら、口を開けて」
狐に餌付けをされるのか、とひどいことを思いながら、束穂は仕方なく口を開けた。放り込まれた金平糖一つ。噛まずに舐めると甘さが体全体を癒やすように感じる。
「先程謝っておられたが、何一つ。何一つ謝ることも泣くこともない。また出会えたのも何かの縁。前のぬし様のことは心底悲しいことであったが、それとこの本丸のことは別の話。人というものは、悲しいことがあっても時を経て笑って話せるようになると聞きました。今はまだ無理でしょうが、いつかその時が来た時に」
小狐丸はもう一粒をつまんで、また束穂の口元にと押し付けようとする。
仕方なくされるがままに口を小さく開け、ころりと口の中に落ちた金平糖を、今度はかりっと噛んだ。
「この小狐丸がまだ側にいれば、共に話しましょうぞ。何、この小狐丸がここに来たことで、心乱してしまったようですが、こちらとしては本当の名を知ることが出来てとても嬉しいのですよ」
だから、悔やまなくても良い。再会をただ喜べと。
束穂はなんだか体から力が抜けたように、無意識にふにゃりと笑った。
それを見た小狐丸は
「やはり、頭巾はとったままが良い。こればかりは譲れませぬなあ」
といって微笑んだ。
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