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【刀剣乱舞】守護者の恋

第8章 本丸の最期


彼らに残された「もう少しの間」は個人差があった。
審神者を看取って朝を迎え、刀達は午後から出陣をした。
二度の交戦後、ふと小狐丸が森の中で足を止める。
「どうした?」
「昨晩、咲弥がいなり寿司を作ってくれた」
空を見上げながら、小さく笑う小狐丸。
様子がおかしいと思いつつも、三日月は穏やかにいつものように応えた。
「ああ。美味しかったな」
「よかった。あれが今晩であったら、後悔が残るところだった……」
「小狐丸」
石切丸の声がわずかに尖る。
「来た時と逆をたどるだけじゃ。但し、こちらに光は見えぬ。我らを迎えた光は既に消え、闇から闇へと戻るだけ。恐れることは何もない。が、少し悲しい」
三日月は小狐丸の手をとった。まだそこに小狐丸はいるはずなのに、三日月の手の中にある小狐丸の手は、人間の手の感触ではない。何か、ふわふわとした、すぐにでもつぶれて消えてしまいそうなもの。
「また、いつか」
石切丸がそう告げると、小狐丸は「うむ」と頷いた、いや、頷いたように石切丸と三日月は勝手に思ったけれど、実際はそうではなかった。
何故なら、既にそこには小狐丸の姿はなかったからだ。
残された二人はしばらくのまま無言で立ち尽くす。
風が吹いて森の木々がざわめく中、どちらもそこから動くことも、声を出すことも出来なかった。
「石切丸が刀装を作るのが得意で、ありがたい」
小狐丸を見送ってからの三日月の第一声がそれだ。驚いて目をしばたかせ、それから苦笑いを見せる石切丸。
「無理をさせたくて作ったわけではないが、無理をさせそうだ」
「ははは。きっと最後に残るのはわたしだから」
「そんな気がする。くれぐれも折れないように」
二人は決して泣かなかったし、小狐丸の後を追うことに対して悲しみもなかった。
「石切丸、森の暗さが深くなった気がする」
「それは心持ちというものじゃないかな」
「そうとも言う」
「咲弥さんを頼む」
三日月は静かな微笑みを返した。石切丸は珍しく、その曖昧な対応を許さなかった。
「約束する気がないのかい」
「あの子を託されるのは、本当につらいのだよ」
「つらい?」
「ああ」
審神者の死に対してもそんな言葉を口に出さなかったのに。石切丸は驚いて眉根を潜めた。
「最後の一人になりたくないなあ。石切丸、わたしより頑張ってくれないか」
「わたしは、それでも良いのだけれどね。こればかりは」
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