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【刀剣乱舞】守護者の恋

第7章 咲弥という守護者(2)


三日月の厚意に甘えたとはいえ、審神者の容態が心配で、束穂は深い眠りにつくことが出来なかった。
真夜中、そっと部屋を抜け出して廊下を歩いていくと、遠くからかすかに小声での会話が聞こえる。
普段は決して、盗み見るようなことに自分の力を使いはしない。だが、何か「予感」がして、束穂はその場で歩みを止め、小声がする場所へ精神を集中した。
空間に関わる力を持つのだから、少し離れたところで起きていることを感知することも出来るのだが、普段はまったくそういった用途では使わない。が、今はそうすることが良いように思えた。
「……!」
審神者の部屋の前の廊下で、三振の刀達は静かに座っている。
それは、まるで手入れ部屋の前にいつも審神者が座っているように。
束穂は、審神者が起きているかどうかを探った。そして、その様子を感じ取ると同時にさあっと青ざめる。
(起きていらっしゃる。けれど、とても……気配が小さい……意識を保っているのが精一杯のような……)
あの日の三日月と彼女のように、今度はみなと彼女が、ぽつりぽつりと会話をしている。が、その声は「蚊の鳴くような声」と言うに相応しいほどのか細さだった。
「ここ数日兆候は出ておりました……ぼんやりとする時間が増えて……どうして自分がここにいるのか……わからぬ時間もあり」
時々声が掠れる。
「けれど、もう少し頑張らなければ……せめて今日は越えなければ……きっと、咲弥さんはご自分のせいだと……そうお思いになるでしょうから……頑張りたいのですけれど」
そこで言葉は止まった。頑張りたい。けれども。
その先に続く言葉を推測して、束穂は唇を噛み締めた。
「ぬしさま。このようなことを言うのは心苦しいのですが」
と小狐丸。
「頑張らなくても、良いでしょうに。ずっと、頑張っていらしたことを我らは知っておりまする」
穏やかな声。
しん、と辺りは静まり返り、やがて室内からすすり泣きの声が細く漏れ出した。それから、かたん、と障子の音。
「無理はなさらず」
静かに石切丸が障子を開ければ、寝間着のままの審神者がずるりと部屋から倒れ出てきた。それを三日月が片手で受け止める。
「もう一度……小狐の毛を梳いて整えてあげたかったけれど」
「ぬしさま」
「誰か、咲弥さんを……呼んできてください……あと何刻生きていられるか……」
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