第7章 咲弥という守護者(2)
それから何度か同じようなことが発生した。
夕食を終えた三人の膳を束穂がさげようとしていると、その話が持ち上がる。
「ぬしさまは、あまりに大きな光ゆえに」
小狐丸が言えば、石切丸も頷く。
「深く深く眠りについていても差し込んでくる光。それを求めて彷徨う刀がいても、何もおかしいと思えないほど」
「粗雑に作られ、粗雑に扱われても、刀は刀。己の本分を全うすることが出来ない後悔や評価されぬ悔しさや様々なものがあるだろう。自分達ではどうにも出来ないそれらへの救済を求めているように感じる」
彼らの言葉が気になって、つい束穂は尋ねた。
「光ですか。お力が落ちている状況なのに、それでもその光は刀のみなさんには強く見えるのですね」
単純な疑問だ。少なくとも束穂にとっては。
それへは、決して馬鹿にするでもなく三日月が穏やかに答えた。
「魂の色や形は、生命力とも別だし、個々人が持つ能力とも違うものだからね。たとえ、病に臥せっていたとしても、刀にとってはどこからでも見える光を常に放っている。そういう稀有な御仁なのだ」
光。
刀にとって彼女はそんな美しいものに見えるのか。
束穂は「そうなのですね」と呟いてその場から退いた。
同じ異質な力を持っていても、やはり審神者と自分はまったく違うものなのだと心底感じながら。
刀達が本丸を空けると、どうやらそれを「嗅ぎ付ける」魂がいるようだった。
三日月は「救済を求めている」と評したが、それらが本当かどうか束穂にはよくわからない。その救済というものが、人の体らしきものを得ることなのか、それとももう一度刀として、道具の生を全うするために蘇ることなのかは定かではない。
一度現代に戻り、違う過去に来ても、何故かどこから嗅ぎつけたのか「それら」は本丸に身を寄せようとするようにやってくる。
格の違いがそうさせるのか、本丸に三振が戻ってくる気配を察知すれば散り散りになっていくのだが、それまでは朝から晩まで。
束穂はいくらか苛立ちを感じることも増えたが、出来るだけ審神者の前でそれを見せないようにと振る舞っていた。
だが、一方で審神者は以前よりも体調を崩すことが増え、不思議と三人がいない間は横になっていることがほとんどになっていた。
それがどういうことなのか、もっと早く束穂が気づいていれば良かったのだ。
