第7章 咲弥という守護者(2)
「咲弥さん」
「はい?」
翌日、出陣前の石切丸が束穂に声をかけた。
「妙な気配がする」
「……はい、気づいております」
「くれぐれも、無理はしないように、ね」
さすが、石切丸は神刀と呼ばれるのも間違いないとうなるほど、目に見えない気配に敏感なのだ。もしかしたら昨日既に気づいていたのかもしれない、と束穂は思う。
三人が出陣した後、本丸の周囲に異変がないかをうかがう束穂。
庭に出て、まるで風を読むように、全身の感覚を研ぎ澄まして。
(結界を感じ取ったあやかしのようなものだろうか)
たとえば、あやかしの里と呼ばれるような場所は、もともと人を寄せ付けないような結界を張られていることもある。
この場所が、それに近いものだと思い違ったあやかしだったり、それを追う特殊な狩人だったりが、嗅ぎ付けて近づいて来ているのかもしれない。
(どうしよう。結界を強めれば、とにかく近づけさせないことは出来るけれど)
更に疑われて詮索をする者たちが集まってくるかもしれない。
「ん……!?」
その時。昨日と同じ気配を束穂は多数感じ取った。一つや二つではない。いくつもの気配。
「咲弥さん!」
審神者が声を荒げて部屋から出てくる。きっと、彼女ですらそれを感じ取ったのだろう。
「刀が。刀達の魂が」
「え……?」
「もう、わたしには彼らを付喪神として導く術がないというのに、何かを感じ取ってこちらに集まってきています」
刀達の魂。
束穂にはよくわからなかったけれど、彼女が言うならばそうなのだろうと思う。
力がどんどん衰えているというのに、それでも彼女はそれらのものを引き寄せる何かを持ち続けているのか。
「……打ち捨てられた、ただ兵士達が形ばかり持つために大量に、安価に作られ、戦で簡単に折られた刀達です」
「わかるのですか」
「はい。たとえわたしの力が残っていても、付喪神として導くことも出来ない……そのような刀達。それでも、魂がそこにはあるのですね」
彼女は部屋の前で青ざめて立ち尽くしていた。束穂は
「決して中にはいれさせませんからご安心を」
と告げて、結界の力を強めた。
「その代わり、三人が戻ったら一度現代に撤退を」
束穂の言葉に、青ざめながら審神者は静かに頷いた。